67.普通の罰では満足出来ない――SIDEヴィル

 惚れた女性を傷つける男に価値はない。愛する人は守るもので、購入して閉じ込め殺すなどもっての外だった。


 ただ平民に落としても気が済まない。過失で見殺しにした1回目を除いても、振り下ろした剣はローザの心をずたずたに引き裂いた。やり直しの機会を与え、周囲の状況を整えても女性一人守れなかった無能だ。どんな罰を与えても足りなかった。


 奴隷? 犯罪奴隷として働かせたとして、その賠償金を受け取るのさえ腹立たしい。あの男が稼ぐ金でローザの身に纏うドレスの僅か数センチでも購入されるのが許せなかった。あの美しい唇に入る食べ物の一欠片であろうと、レオナルドに関与はさせない。


 不幸だった分、ローザは自由に着飾って、微笑んで過ごして欲しい。その傍らに僕がいて……。ああ、そうか。あの男を苦しめる方法を思いついた。


「ベルント」


「はい」


「元リヒテンシュタイン公爵だったレオナルドと、その従姉妹ユリアーナを引き取れ。ラインハルトは拒絶しないはずだ」


 無駄な問答をせず、ベルントは動いた。あの女は二度に渡りローザを殺した。事実上その手を下したと言ってもいい。レオナルドがローザの浮気を疑った3回目も、その情報を持ち込んだのはユリアーナだ。そこまで好いた男なら、結婚させてやろう。


 牢に繋ぎ、好きなだけ愛しあったらいい。人は愛があれば生きていけると宣う輩に、現実を教えてやろうではないか。愛を維持するために、何が必要か。


 愛する人を飢えさせ、汚い場所で睦み合い、病で体が腐り失われるまで。飼ってやる。確か生きたまま腐らせる呪術があったはず。ベルントが退室した書斎の壁に並んだ書籍を、ごっそり引き抜いた。本の内側に別の本が差し込まれている。


 呪術関係の希少な本を人目に晒さず、手元に置くための措置だった。隅に置かれた辞書や分厚い歴史書から、目当ての本を見つけ出す。


 開いた本は古く、触れたら崩れそうだった。かび臭さが染み付いた本を広げ、丁寧に呪術の手順を確認する。基本はすべて頭に入っているが、詳細部分が異なる呪術も少なくなかった。


「なに? また珍しいの引っ張り出したね」


「あの男にピッタリだと思ってな」


「なら、これ……こっちも使ってよ」


 精霊は別の本を引っ張り出し、呪術のお勧めを始めた。生きたまま腐らせるだけでは手ぬるいらしい。こういうところ、人と感覚が違うが素直で心地よい。嘘がない友人との本音の会話だ。ラインハルトが僕を友と呼ぶのも、理解できた。本音を口にできる相手なんて、王妃シャルロッテくらいだろう。


「これは初めて読むやつだ」


 じっくり目を通し、順番を組み立てていく。その間にも、精霊はオススメと言いながら複数の呪術を広げてみせた。どれも魅力的だが全部を使うのは難しい。


「3つまでだ」


 数を制限した。人間は精霊が考えるより脆い生き物で、簡単に壊れてしまう。すべての苦痛を味わわせてやりたい。だが、壊れた者を甚振る意味がないことも、重々理解していた。


「これは外せないな」


「ローザに与えた心労を思えば当然だろう」


 真剣に額を突き合わせて選び、月が傾く頃にようやく決まった。後はベルントが引き取ってきた囚人が届いてから。自然と口元が弧を描き、それを指摘する精霊も同じ顔をしていた。











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