虐げられていた令嬢は没落した家を見捨てる~愛しい貴方がいればいい~

ことはゆう(元藤咲一弥)

虐げられていた令嬢は没落した家を見捨てる~愛しい貴方がいればいい~





 家族から愛されたことなんて一度も無かった。

 愛おしいとされてことなんてなかった。


 けれど、心のよりどころとして幼い頃あった少年とのお守りがあるから生きていられた。





「セレスティーヌ!! ええい、忌々しい! お前の所為でまた妹の婚約が駄目になったではないか!!」

 お兄様はそう言って私を殴ります。

 でも私は何も悪くない、あの子が他の男と遊んだのが悪いのです。

 そのような尻軽女に育てたのは貴方達でしょう?

「本当疫病神め!」

「お前の所為で私の妻も逃げ出したではないか!!」

 そう言うけれども、お兄様の奥方様は私の様を見て逃げたのです。

 全ては貴方の責任。


 何も言わないことを貫き、私はじっと耐えます。


 暴力に耐えるのはなれていますから。


 殴られるのが終わり、誰もいなくなると、私は自室のぼろぼろの小屋に戻りお守りに口づけをします。

「今日も貴方のおかげで生きられたわ、ありがとう」

 そう言って、ぼろぼろの毛布にくるまり眠りに落ちます。





 眠りに落ちると、私は綺麗な服に身を包み、見たことも無い綺麗な場所に立っていました。

 いつもの夢。

 そこで美しい銀髪に、碧眼の美しい青年と出会うのです。


「セレスティーヌ、今日も酷い目にあったね」

「いいの、クロード様。貴方とこうして夢で会えるから」

「大丈夫だ、もうじき君を迎えに行くから」

「本当?」

「ああ、もうじきだ」





 夢はそこで終わりました。

 私が目覚めると屋敷の方が何やら騒がしかったです。


「──という事だ、バルテル侯爵、貴殿はヴェルネ殿下の婚約者を家族総出で虐待し続けた為、爵位と財産全てを没収させて貰う!」

「ま、待ってくれ!! 婚約者?! セレスティーヌが?! 私はそんなの聞いてないぞ!!」

「どういうことなのセレスティーヌ!!」

「どういうことなの、せれ……お姉様!!」

「セレスティーヌどういうことだ」

 血相を変えて私に問いかける「元家族」を冷たく見つめます。


「虚言と言うでしょう貴方達は」


 そう言うと、私に駆け寄ってきたクロード様の侍女らしき女性が私を悲壮感の漂う顔で見つめます。

「なんて酷い目に……さぁ、参りましょう」

「はい」

 侍女の方につられて、私は屋敷を後にしました。





 より大きなお屋敷に連れられ、入浴をして体を綺麗にして、治療薬で傷を治してもらい、夢で見た綺麗な服を着せていただきました。


「セレスティーヌ」


 夢で何度も聞いた声に振り向けば、夢で見たクロード様その人がいらっしゃいました。

「クロード様……!!」

 私はクロード様に駆け寄ります。

 クロード様は私を抱きしめてくれました。


「セレスティーヌ、辛い思いをさせてしまったね」

「いいのです、貴方がいたから耐えられました」

「ところで、君の元家族はどうする?」

「どうする、と?」

「没落してしまったけど、助けるかい?」

 クロード様の言葉に私は首を振りました。

「そうだろうね、ついでに処刑もしてしまおうか?」

「いいえ、そこまでは。没落の理由を周知させていただければ、十分です」

「本当に?」

「クロード様がいるから、もういいのです」


「愛さなかった両親も、全て私の所為にする兄と妹も、もういいのです」


 事実でした。

 もう、どうでもいいのです。


 クロード様がいれば。


「愛しいセレスティーヌ、これからは私が君を守り側にいよう」

「ありがとうございます、クロード様」





 それから私はクロード様と結婚し、一緒に過ごす日々を送っておりました。

 二年の月日が流れた頃、ある問題を抱えている村に向かう事になりました。

 クロード様は私には来て欲しくないようでした、その理由が分かりました。


 問題とは私の「元家族」だからです。

 諍いを起こし、村人から白い目で見られている厄介者をどうにかして欲しい──

 クロード様の領地内の村での事でしたのでクロード様が出ることにしたのです。



「お、おお、セレスティーヌ! 私達を助けてくれ……!」



 すがるように私を見る元家族達。

 私は助けるつもりはありません。

「クロード様、どのような処罰を?」

「もう、罪人として投獄してしまおう。盗みなども働いている、看過できん」

「それがよいでしょう」

 頭を下げて許しを請う元家族達、私は見捨てます。

 だって、せっかくの贖罪の機会を捨てたのは、彼らですから──





「セレスティーヌ、君には醜い者を見せてしまったな」

「いいえ、クロード様、気にはしておりませんわ。クロード様がいれば私はなんだって平気ですから」

「セレスティーヌ……」

 クロード様は帰りの馬車の中で私の手をそっと握ってくれました。


「すまない、私が病弱だったばかりに君との婚約を公にできなくて」

「いいえ、良いのです。だって、貴方は私を迎えに来てくださる程に健康になられました」

 私は手を握り返します。


「愛してます、クロード様」

「私もだ、セレスティーヌ」





 私には、クロード様がいればいい。

 元家族など、いらない──











end

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