ギャル小説家の担当編集
書く鹿
第1話 自分の理想でイメージを固めすぎるとそれが崩れた時のギャップがデカすぎる
この春。俺は新卒で出版社の編集担当として、働くことになった。先生は
その先生の担当になったはずなのだが……。
「うぃ〜! 君が今日から私の担当してくれる人っしょ? よろろ〜」
「すみません人違いです」
おかしいのは、俺は決して家庭教師とかそんな感じのビリギャル的なアレの感じになったわけじゃないのに、先生との待ち合わせ場所に来たら、この金髪女子高生がいたということだ。
「あっ、そうでしたか。すみません」
「……いえ、大丈夫ですよ」
しかしこういうことも偶然もあるのだなと思う。
待ち合わせ場所はスタバの一番奥の席。まさかそれが時間と場所も被るとはなと。
「っておーい! 私が神楽坂観音なんですけど!!」
「えっ……」
この金髪で胸のデカいアホみたいな女の人が……あの、神楽坂観音先生……?
「ぇぇぇえええええええ!?」
「驚きすぎだし……」
「いや、だって、作風と全然イメージ違うんですが!?」
「そうかなぁ。ま、ギャップ萌えしたっしょ?」
そう言いながら観音坂先生はなんかクリームがいっぱい乗った甘ったるそうな飲み物を飲んでは恍惚の表情を浮かべていた。
「萌えないですよ……ってか、え、何? 女子高生なんですか?」
「うぃ! 現役JKです! いうても女子校だから彼氏とかおらんけどね〜。JKブランド使い潰してる感」
おいおいおいおいおいおい……。マジかよ……。
どうすんだよ。ギャルとなんて話したことないよ……。
まぁ、仕事の関係だし、別にいいか……。いやよくないだろ。憧れの小説家が自分よりも六つ下の女子高生だったんだぞ。
「失礼しました……。
「りょん。伊豆山さんとか長いから、さんさんって呼ぶね」
ピックアップするのそこなの?
「で、先生はなんで俺……っつーか、若い男を担当につけたがったんですか」
担当者っていうのは経験豊富な方が頼りになる。
もちろん、我が道を行きたい作家にとっては口出ししてこないような新人の方がありがたいのかもしれないが、普通はベテランとかの方がいいんじゃないの? こういうのって。いや、作家の気持ちとかよく分からんけど。
「私、恋愛小説書きたいなって思ってさ。でも、私中高一貫の女子校じゃん? ってか、彼氏とかもできたことないじゃん? 初恋とかも小学生の頃のを除けばないわけじゃん?」
「つまり……?」
「出会いを求めて!」
「そんな理由なの!?」
なんてこった。最悪だ。
新卒で編集担当になれたあのウキウキを返してほしい。マジかよ。ないない。いや、マジでない。
そもそもギャルがない。もっと気難しい先生と衝突しながらも打ち解けあって、最終的には唯一無二のパートナー的な感じになりたかったのに。そういうのなさそうだもん。
単純そうだし、衝突とかなさそうだし、誰とでも仲良さそうだもんこの人。
「てなわけでさ。一緒に私と青春しようぜぃ!」
「しませんよ……」
「えー!!!!」
目に見えるように落ち込んだそぶりを見せる神楽坂先生。あんまり飲み物ぶくぶくしないの。
「ま、とりまライン交換しよ」
「はい」
画面を開いてさっとラインを交換する。知り合いかも? の欄には神楽坂先生の名前があった。
「じゃ、今日何する? やること終わったっしょ」
「はい。今日は顔見せのつもりなんでもう帰りましょうか」
「もしかして陰キャ?」
「それ初対面の人に言っちゃだめですよ」
とんでもないスピードで失礼なことを言われたが、こういうことにも慣れないとこの先生とはやってけない気がする。
「カラオケ行こ」
「……いきますか」
「よっしゃーい!!」
そしてこういう思い付きの行動に付き合うのも慣れないといけなさそうだ。
それに新しい小説は恋愛系にしたいと言ってたし、聞いたところ意外と男慣れというか、あんまり男とかかわる機会も少ないみたいだし、いい刺激になればと思いながら行くことにした。
スタバを出てカラオケ店に向かう。
他愛もない話をしていたら、カラオケ店に着いた。
部屋に入ると俺の歌わないオーラを察したのか、神楽坂先生は曲を入れ、マイクを持つ。俺はさらにタンバリンを持ち、完全に歌わない体制を作る。
神楽坂先生はさっきとは打って変わって、静かな歌声を響かせる。最近の女子高生はみんなこんな感じなの? こんな高性能なの?
「はい! 次さんさんね!」
「いや、俺歌わないんで」
「えーっ!? 歌わんの!?」
さっきまでのきれいな声どこ行ったんだよ。二十四時間歌っててくれ。
「しゃーない。神楽坂のワンマンコンサートだーっ!!」
恐らく、神楽坂先生のファンにこの姿を見せて「これがあの『海援隊が征く』や『都、燃ゆ』『
特にファン層は中高年が主なのだから、あんまりびっくりさせちゃいけないのに。
そんなことを思いながら適当にタンバリンを叩きながら神楽坂先生の歌を聴いていた。
これからこの先生とやってくと思うと、不安が募る反面、退屈しなさそうではあると内心思っていたのかもしれない。
会計を済ませて店を出る。もう春だからか、日が傾き始めても、暖かい空気がまだ残っていた。
「うぃ〜歌ったね〜」
「先生、歌上手いんですね」
「本当? 神楽坂、照れちゃう」
夕陽というのがやけに金髪に映えて見える。その瞬間を切り取ると、一枚の絵のような気さえした。
「では、俺は電車に乗るので」
「りょん! じゃあ、またねー!」
そうして、神楽坂先生と別れる。
電車に乗り込んで、スマホを見ると神楽坂先生のラインがまだ知り合いかも? の状態だったので、それを友達登録して胸ポケットにしまう。
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