天皇辞めさせていただきます

レミリオン

第1話 「辞表」か「退職願」どっち

辞めたい・・・


転職したい。


こういう時はどうしたらいいのだ!?


ネットで検索すると、管理職は「辞表」を提出し、一般職の人間は「退職願」を提出するらしい。

では、私はどっちなのだろうか。


私の職業は天皇である。

つい数年前までは皇太子だった。


管理する側と言えば管理する側なのか?

でも、天皇は象徴であって、国民を管理するのは国会?内閣?政治家?


あ~~~。

分からなくなってきた。


そもそも、俺は誰にこれを提出すれば辞めさせてもらえるのだろうかーーー。

悩めば悩むほどイライラしてきた。


と、何も始まっていないのにもう辞めたいと言っている私の事を少し紹介しよう。

名前は、奥寺 文雄(おくでら ふみお)

でも、天皇としては一ノ瀬 湊(いちのせ みなと)という名前でやっている。

え?天皇って偽名なのって?

もちろんそうだ。だって、本名だせぇじゃん?


年齢は25歳

性別は男


父が他界して、一人っ子の俺が天皇になったというわけだ。

でも、俺まだ25歳だぜ?

大学卒業して、就職したけど急に辞めさせられて、天皇にならさせられて。

今後ずっと天皇でいるなんてありえねぇよ。


国民に笑顔で手を振り続けて、イライラしてても何も自分の言いたいことは言えない。こんな退屈な仕事あるか?

親父が生きてたら、親父に相談するのに。


てか、なんでこの便利なネット社会で天皇の退職の仕方出てこないんだよ。

知恵袋で聞いてみっかな?


部屋の外から冷たい声が聞こえてきた


母『ふみお・・・』


かぼそい声だ。

しっかり聞かないと聞こえないくらい小さい。

でも、俺は慣れている。

母は疲れているわけではない。

小さい声で話すのが癖になってしまったのだ。

天皇の婦人が大声でわめきちらかしているのは見たことがないだろう。

そう、母は父と結婚した事で普通にはなす権利を奪われた。

そして、顔は嘘の笑顔が一生取れない。


返事をしなかったので、母がもう一度声をかけてきた


母『ふみお!』


え?いつもより大きい?


ふみお『どうしたんですか?』


母『今日は仕事行かないの?』


ふみお『えっと・・・。いや~。なんか~。今日は行きたくないというか、なんというか』


母『何を言ってるの!?早く言ってきなさい!』


ふみお『え、あ、分かったよ。行ってくるよ』


母に怒られたのは初めてだった。


というか、母の声をまともに聞いたのも初めてかもしれない。


驚いて、部屋を出た。




これが、私が母と交わした最後の言葉だった。

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