番外編
600PV記念! 可愛いあの子
彼女に出会ったのは、七歳になったばかりの秋も終わりに近づいていた日のことだった。
『ねえねえ、聞いたわよ。』
『何のことかい??』
『いやぁねぇ、奥さん。お隣の家に人が越してきたんでしょー?』
『あぁ。そのことかー。確かにそうらしいねぇ。』
『そうらしいって......。越してくる人なんて何年ぶりに見たか..........、』
おばちゃん達の井戸端会議を盗み聞きしていた幼き日の俺は、〝ご近所さん〟が出来たということがとても嬉しかった。
それを知ってしまった俺は居ても立っても居られなくなり、街を片っ端から走り回って新しい住人を一目見ようと躍起になった。
だけど夜までいくら捜しても、それらしい人物に会うことは出来なかった。明日また捜そう、と諦めて家に入ろうとしたその時、どこからか歌声が聞こえてきた。
空に架かるは虹大橋
その
虹王、その土地浄化せ給ひて
澱みのない聖水のように澄み切った歌声に引き寄せられるように、気づけば声のする方へ足が勝手に動いていた。
茂みの中を掻き分けてやっとの思いで見つけたその声の主は、俺とそう変わらないくらいの背格好をした女の子だった。
『あ、あの......、』
『だ、だあれ!?』
振り返ったその子の顔を見たとき、すぐに自分の頬や耳が熱くなるのを感じた。
風が吹いている。
足元にあるたくさんの落ち葉が、まるで俺たちを包み込むようにくるくると回っている。
いつもうるさいおばさん達の声が聞こえない。まるで耳に膜が張られたように。
ただ、目の前にいるその子のことしか考えられない。
『ねえあなた、なんていうお名前??』
首を少し傾ける、そのちょっとした仕草でさえ特別なものに思えて。
掠れそうになる声を必死に絞り出して答えた。
『れ、
『廉結ね!!私、
そう言って星華は俺の手を握り、笑って茂みの奥の方へと駆けていった。
『これがヒトメボレ......か。』
俺はしばらく歩くこともままならず、その場にへたり込んだまま小さな声で星華の名前を唱え続けた。
『また、会えるかな............?』
その翌日やっと会うことの叶う、隣に越してきた女の子に俺はこの先ずっと振り回されることになる。その人は俺のヒトメボレした女の子で、永遠の片想いをするたった一人の愛しい女性。
ツンとした金木犀の匂いが妙に鼻についたあの出会いを、俺はいつまでも忘れられない。
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