第10話 義母
「
(げっっ!?名前詐称ばば....っ!?)
「お母様ぁ!!そうですわね。私としました事が、大変申し訳ありませんでしたわ。」
「いいのよ。貴方は九年間もの間よく頑張りましたもの。何処かへ出掛ける事もなく、姫という立場における責務に対してひたむきに向き合っていた事、この母がよく分かっていますよ。」
(はぁ、また始まった。変わってないのはどちら様なのかしら??)
今にも飛び出しそうな本音を内に秘め、星華は久方ぶりに表情筋を総動員させ、にっこり笑顔を建設した。
かつての星華にとって、この親子の嫌味は日常に存在するものだった。当時次期国王代理であった
一方、美しいと世間で評される赤霞の切れ長の瞳は、彼女にとってただの重石でしかなかった。初めはただ羨むだけだったが、河雪へ嫁いでからはそれが徐々に妬みへと変わっていった。
何でもそつなくこなす紅鏡は名君として国民らに尊ばれ、その名声が拡大していけばいくほど赤霞はその影に落ちていった。まさに、高く昇る太陽と沈みゆく夕焼け—。劣等感に苛まれた赤霞は己の良い所を全て否定し、ついには自身の名前にまでも劣等感を抱くようになった。
紅鏡よりも濃く、地位や名声を我が手中に収めたい.....。そこで彼女は臣下達に“芳緋夫人”と呼ばせるようになったのだった。
「ごめんなさいね、星華。あの子は、私の教育が至らなかったせいか世の中の事を知らなくてね。私にはあなたのお母様のようには娘を育てられなかったみたいだわ。」
当て付けの言葉を隠そうともせず、にっこりと吊り上げられた赤い唇はまるで、矢を引く弓のようであった。主への悪意ある態度に我慢ならなくなったのか飛び出そうとした
「いいえ、良いのです。やはり私のお母様は凄いのですね。大智は愚の如し、ということわざは本当なのですわね。....さて、挨拶に伺っただけですし、大変お恥ずかしい事に私、するべき事が山のように残っておりますのでそろそろ失礼させて頂こうかしら。」
星華の言葉は、自己主張が激しく、過度に娘自慢をしている彼女への充分すぎる当て付けとなった。
「おほほ。あら、残念だわ。まだまだお話ししとうございましたのに。....けれど仕方がありませんわ。せいぜい頑張りなさいね。」
「またいらしてね。....今度こそはあの方もお連れして。」
(もう来たくはないなぁ。それに、もしまた行くことになっても
まるで小さな子供のように、星華は小さくひとりごちた。
振り返る事なく
「なんなんやーあいつ!!ほんま腹立つ奴やなーっ!!」
帰るなりどかっと床で胡座をかきながら、絳鑭は拳を強く打ちつけていた。
「あいつ、星華をまるで目の敵のようにっ!!あれの子供やからあのガキもあんなんになるんやっ!!よう分かったわー。っつーか鵲鏡鵲鏡うるさいんやっ!!黙れこん阿呆!!」
怒りのため絳鑭の言葉使いは、どう考えても宮廷関係者とは思えないものとなっていた。
「まあまあ落ち着いて。あの二人はずっと前からあんなだからもう慣れっこなのよ。」
「星華、お前あんなのと小さい頃から渡り合っていたのか!?よくやってたなぁ。」
廉結は妙に感心して、星華を尊敬の眼差しで見つめた。
「コッコッコッ!!見ておれ厚化粧不細工!!いつか絶対うちが星華を見たら跪きたくなるようにしてやるっ!!覚悟しときやー!!!」
よほど癇に障ったのか、廉結でさえ突っ込む所がないような変な笑いを浮かべる絳鑭は、虹烏殿に冷たい風を誘い込んだ。
「ほうほう。そうですか。そりゃー鵲鏡がどうしても星華様に付いて行く事ができないわけですね。よぉ〜く、分かりましたー。」
「............................。」
鵲鏡には、ぼそぼそと耳打ちしてくる
「これは....良き契機ですね。.........様??」
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