第88話 第二の刺客

 第二の刺客の襲撃は、翌日の深夜の事だった。


「……」


 俺は俺の腕を抱き枕にして眠るモルルをそっと抱き寄せて、そのままお姫様抱っこに移行する形で立ち上がった。


 モルルはドラゴンなだけあって、多少雑にしても起きすらしない。こんなときは、楽でいい。


 部屋の外に出る。すると、アイスとサンドラがすでに廊下に出ていた。


「みんな気付いたか」


「うん……。囲まれてる、ね」


「7人いる。結構大人数の動員。全員まぁまぁの手練れ」


「クレイ起こしてきたよ」


 トキシィが、眠そうなクレイを部屋から連れ出してくる。


「君たちよくこういうの気付けるね……」


「女の子はこういうのに敏感なの。ウェイドがすんなり起きてきたのが、逆にちょっと意外」


 トキシィにからかわれ、俺は笑って肩を竦めておく。


「俺は臆病者だからな。敵が近くにいると眠れないんだよ」


「あはは。良く言う」


 ということで、アレクを除いた、パーティメンバーの全員がそろったことになる。アレクは今日忙しいということで、この家には居ない。


 俺は端的に指示を出した。


「機動力での遊撃部隊と、家の中でモルルを防衛する部隊で分ける。遊撃は俺とサンドラ、あとアイスの雪だるまも貸して欲しい」


「「了解」」


「次に防衛部隊。クレイを司令塔にして、トキシィ、アイスで対応に当たってくれ。アイスにはモルルを託す」


「「「了解」」」


 俺はモルルをアイスに手渡した。アイスはモルルを受け取って、嬉しそうにそっと一撫でする。


「注意事項としては、アイスの負担がいくらか重い。クレイとトキシィがメインになって、アイスを守ってやってくれ」


「言われるまでもないさ」


「アイスちゃん、任せたよ! 私の毒だとモルルまで良くないから」


「うん……っ。頼りにしてる、ね」


「では―――散会!」


 アイスに雪だるまを三つ託されて、俺はサンドラと共に二階のバルコニーから外に躍り出た。


「ッ!」「チッ、バレたか!」「予定変更! 早々に侵入し、メタモルドラゴンを奪取せよ!」


 シャキンッ、という音が連続して鳴る。恐らく人払いの魔道具も兼ねているのだろう。


 奴らの行動と同時、サンドラが言った。


「侵入? させるわけない。あたしの落雷で一網打尽―――サンダーボルト」


 サンドラの腕からパツパツッと小さな電気が上空へ昇る。暗雲。「何だアレは」と刺客たちが動揺している。


 サンドラが、腕を振り下ろした。


「全員、あの世行き」


 そして落雷が、刺客たちを射抜く。


 轟音、閃光。俺はいつものように目と耳を手で押さえてスタンを防止し、落雷終了後即座に手甲を構えて奴らの中心に降り立つ。


「よう。ウチの娘を攫いたいんなら、この十倍は人数揃えて来いよ」


 近くに居た、感電して動けない一人を加重アッパーカットで空に打ち上げる。すでに黒く炭化している一人は放置で、辛うじて逃げ出そうとしている連中に狙いを定める。


「逃げられると思ってんじゃねぇぞ人攫いどもがぁああああああッ!」


 俺は吠える。昨日習った、アレクの交渉術の一つだ。交渉とはどんな状況でも起こりうる。逃げる相手に『待て』と呼びかけるのも交渉だ。


 故にこそ、俺の咆哮は三人の動きを恐怖にぎこちなくさせた。


「アレク、アンタ金額分働いてるよ」


 俺は【軽減】で低く跳躍し、一瞬で敵との距離を詰める。躊躇わず距離を取り侵入に向かう二人はスルーだ。この恐怖する三人を、確実につぶす。


「アイス、地面だ」


「キピッ」


 三人の進む方向に、俺は雪だるまを投げた。アイスの魔法が地面を凍らせ、三人の足を地面に縫い留める。


 後は俺の独壇場だ。俺は勢いをつけて飛び、ドロップキックの要領で全員をなぎ倒す。


「よし、これで三人だ」


 俺の攻撃に体勢を崩し、全身で氷の地面に三人は拘束された。そこに間に合ったサンドラが「スパーク、スパーク、スパーク」と三人の意識を刈り取る。


 俺は指示を出した。


「アイス、二人そっちに行った。よろしく頼む」


「キピッ」


 雪だるまが敬礼する。俺はサンドラに振り返って、「他に後続で控えてる奴がいないか確認しよう」と新たに指示を出し、動き始める。











 アイスは指示を受け取って、一度首肯した。


「二人来る、みたい……。ウェイドくんは、さらに他に来るか警戒する、って」


「中は完全に任せてもらえた、という事みたいだね。光栄な限りだ。なら、精々頑張って、期待に応えようじゃないか」


 クレイは不敵に微笑んで言う。にしても、二人か、と思わないでもない。外の二人の派手で高速な攻撃は、刺客たちを大きく刈り取ったというところだろう。


 クレイは、口を開いた。


「前提を確認しよう。今回、僕らは制約を負っている。それはつまり、ここが僕らの家という事。もっと言うなら、可能な限り破壊は避けたいという事だ。そこに配慮して動こう」


「となると、毒は固形のもの以外は使いたくないところだね。液体でも気体でも家を汚しちゃう」


「僕が暴れまわるのも良くない。ということで、今回はこの家に頑張ってもらおう」


 アイスとトキシィは、クレイが言う「家」という言葉を繰り返す。クレイは「そうとも」と頷いた。


「僕らの目指すべきは、二人の侵入者を無事に撃退しました、ではない。外の二人は出来なかったこと。つまりは、情報の収集まで務める。それが僕らの到達点だ」


 それを聞いて、アイスは頷いた。トキシィも「なるほどね。なら、いい毒があるよ」と瞳を輝かせる。


 その時玄関口の方で、ガチャ、と扉を開く音がした。


「さ、お出迎えだ。家の主の一人として、きちんと出迎えようじゃないか」


 狂人三人が、笑う。

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