第14話 それぞれの武器:アイス

 俺とアイス、ついでにクレイは、三人で訓練生用の武器屋に来ていた。すると、女店主がガヤガヤと受け入れてくれる。


「いらっしゃい! おっ、これはこれは。今新進気鋭のウェイドパーティじゃないか。安くしとくよ?」


「ははは、よろしくお願いします」


「こらまた礼儀がいい! スラム出身とは思えないね」


「教官に仕込まれましたので」


 俺は適当に武器屋とやり取りしながら、カバンを漁った。そして、ゴブリンから回収した毒のナイフを取り出す。


「まずこれの査定をお願いします。買い物はその売値も込みでって言う感じで」


「はいはい! ……おや、これはめずらしい。毒のゴブリンナイフかい」


 いいよ、色を付けて買い取ったげよう。そんな言葉に「ありがとうございます」と一礼してから、俺たちは向かい合った。


「それじゃあ、各自適当に武器を見繕って再集合としよう」


「うんっ」


「そうだね、じゃあ行ってくるよ」


 マイペースに居なくなるのはクレイだ。何でも最近ドロップが退校してしまったとかで、パーティが空中分解気味らしい。それで、良ければ自分も入れてくれないか、ということだった。


 ドロップの退校については、次席まで行ったのにもったいない、と思いつつ、仕方ないとも思った。マンティコアの件で思うところもあったのだろう。命より大事なものはないしな。


 そんな訳で、俺たちは仮三人パーティという名目で、このように集まっていた。今日はひとまず、支給品でなく自分用の武器を用意する、と言うのが目的だ。


「あ、あのねっ、ウェイドくん……。わ、わたしの武器、一緒に選んでくれると、嬉しいな……っ」


「ん、ああ、いいぞ。俺に武器を見る目があるのかは分からないが」


「あ、あり、がとう……! すごく、嬉しい……っ」


 ふにゃっと柔和に笑う様子を見ると、アイスは愛嬌があるな、なんてことを思う。この愛想があれば、どこでも生きていけそうだ。


「じゃあ、先にアイスの武器を選ぼうか。俺のは半分決まってるようなものだしな」


「……そう、なの?」


「ああ。あまり迷う要素がない」


 俺は頷きつつ、アイスに合う武器、と考えてレイピアエリアに向かった。レイピア。細長い、刺すような攻撃が特徴の剣だ。


 アイスに限らないが、女性の筋力を考えると重い武器、と言うのは向かない。たまに重量級の武器を操る女性もいるらしいが、アイスは中でも非力だ。軽い武器がいいだろう。


 となると、レイピアがまず候補に挙がる。他にも短剣などでもいいが、アイスの場合はまずリーチが欲しい。


「アイスは確か、魔法を伝えられる武器がいいんだよな」


「うん……っ。あのね、アイスブロウを剣に掛けて、それで攻撃すれば、アイスブロウを直接掛けるのと、同じような効果があるんじゃないかな、って……」


 もじもじしながら言うアイスだ。だが、中々考えられている。鉄製の武器なら、冷気をすぐにため込み、そしてそのまま敵に伝えることが出来るだろう。


「よく考えたな、良いアイデアだと思う」


「……うんっ! えへ、えへへ。ありがとう……ウェイドくん」


 照れくさそうなアイスだ。俺は微笑して肩を竦めつつ、並べられるレイピアに目を向ける。


 冒険者用のレイピアは、基本的に質が高いとは言えない。元々貴族の使うような種類の剣を、やむにやまれぬ事情があって使う、という形になるためだ。


 だから、ミスリルなんかが使われるようなものに比べると、魔法伝導能力は低いし、何より脆い。そう考えると、俺としては壊れる前提の運用が適切なのでは、と考えている。


 とすれば、と、俺は二つの一番安いレイピアを選んだ。


「レイピアは壊れやすい武器だ。貴族用の頑丈で質がいいのは、俺たちに届く値段じゃない。なら買い替え前提で折れた時用の予備も含めて買う、ってのがいいと思う」


「そっか……。確かに、そうだ、ね。剣そのものの威力が大事って、わけでもないし、そうしよう、かな」


「ひとまず、俺の提案としてはこんな感じだ。この二つは規格が同じでどっちも安物。買い替え前提にちょうどいいと思ってな」


「うん……っ。ありがとう、ウェイドくん……!」


 小さい声で精いっぱい感謝を伝えてくるアイスだ。俺は「大したことじゃないさ」と軽く返事をしておき、それから「左手武器も欲しいよな」と周囲を見る。


「左手、武器?」


「パリーイングダガーとか、そういうのだ。レイピアなのに盾を構えるとせっかくの身軽さが損なわれるからな。小型の盾でもいいと思うんだが……」


 考えながら見ていると「これ、どうかな……?」とアイスが何やら持ってくる。


 それは、小さなメイスのようだった。メイス、つまり鈍器であると同時に杖である武器のことだ。


 杖は魔法を強化する媒介になる。アイスの場合は、握って魔法を使えば冷やす力が強まるはずだ。


 かと言ってそれ以外には使えないかと言うとそうでもなく、鉄製でほどほどに重量のあるフォルムは、鈍器としても役立つだろう。


「ちょっと重いから、盾じゃないけど、防御にも使えるかなっ、て……。この大きさなら邪魔にならないし、魔法も強化、できる、から……」


「それは、いいな。かなり理想的だ」


 俺はかなりセンスのいい選択に感心する。この感じなら、俺の武器もアイスに選んでもらった方がいいか……?


「え、えへへ。嬉しい、な。じゃあ、わたしはレイピア二つと、この小さいメイスにしよう、かな」


 にっこにこのアイスだ。今日は上機嫌だな、と俺もほっこりする。ひとまず、アイスはこれでいいだろう。


「アイス、次は俺の武器も一緒に選んでもらっていいか?」


「……っ! うんっ。是非、一緒に選ばせて……っ!」


 ノリノリのアイスに頼もしさを感じつつ、俺たちは重量級の武器エリアに向かう。









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