【コミカライズ連載中!】ノロマ魔法と呼ばれた魔法使いは重力魔法で無双する ~まだ重力の概念のない世界にて、少年は万有引力の王となる~

一森 一輝

訓練生編

第1話 ノロマ魔法

 貧困を抜け出すために冒険者になるものは多い。


 冒険者制度は貧しい者への救いの手だ。無料で訓練をつけてくれるし、訓練の途中で魔法まで授けてくれる。何より訓練中なら朝昼の飯にタダでありつける。


 だから俺も最低年齢である15歳になった途端、酒浸りの父親を見捨てて冒険者登録に赴いた。


 俺に日雇いの仕事と家事を押しつけてた父親は怒り狂って殴りこんできたが、門番さんに追い払われてた。ザマーみろ。


 そうして、俺は冒険者見習いになった。


 初めはひたすら走って、ひたすら筋トレして、ひたすら木の剣を握らされて同期の連中とチャンバラさせられた。


 訓練は生易しいものじゃなかった。初日はみんな揃ってゲロ吐いたし、ぶっ倒れた奴が水ぶっかけられて起こされてたのも見た。


 けど、たらふく飯にありつけるのだけは感謝だった。むしろ、苦しいほど食べても完食しなければどやされた。


 俺は食える方だったからよかったが、細めの女の子は食事の半分くらいで顔を青くしていた。可哀そうな話だ。


 訓練所では、男も女も関係ない。まず生き残る力をつけさせるために、基礎体力を強制的につけさせられる。


 俺の痩せっぽちだった身体は、見る見るうちに筋肉を蓄え始めた。栄養が足りなくて全然伸びなかった身長はぐんぐんと伸びて、夜中は関節の痛みで寝られないほど。


 そうして一か月した頃、俺たちの同期は全員、俺含めて見違えたようになっていた。走っても息切れしないし、筋トレも苦しくない。チャンバラも打たれることが少なくなった。


 そんなある日のこと、俺は他の成績優秀者と共に、教官に呼び立てられていた。


「……なぁ、これってやっぱり、そういう事だよな」


 優秀成績者の一人であるフレインが、ワクワクした様子でそう言った。顔に傷を持ったオラオラ系だ。成績優秀者の中でも仲のいい奴に絡んでいる。


「これでとうとう魔法使い……! くぅう! やったな!」


「ああ! すっげー強い魔法覚えて、一気に銀の剣の冒険者にまで上り詰めて、騎士団入りだ!」


 剣の冒険者。つまりは傭兵のことだ。冒険者ギルドは、傭兵、狩人、そしてダンジョン探索者をそれぞれの管轄で管理している。銀、というのは等級のことだ。銀はベテランを指す。


 ちなみに今俺たちが首に引っ提げているのは、卵の冒険者証だ。見習いの証である。ダサいから早く新しいのが欲しい。


「にしても……最優秀成績者様は、冷静じゃねぇか。え? 他の奴らは全員浮足立ってるのに、お前だけ済ました顔でよ」


 フレインは俺に絡んでくる。俺は嘆息して答える。


「冷静じゃない。怖いだけだ。今まで頑張ってきたのが、ここで授かる魔法で全部ムダになる可能性だってある。俺はむしろ、お前の能天気さがうらやましい」


「あぁ!? 馬鹿にしてんじゃねぇぞウェイド! テメェ調子に乗りやがって……」


「ふ、フレイン。ウェイドに絡むのはやめとけって……」


「怖がってんじゃねぇ! ムカつくんだよ! どんな時だって澄ました顔しやがって……!」


 荒れるフレインに、俺は面倒な限りだと息を落とす。訓練所で優秀だったかどうかは、冒険者になったらすぐに無意味になるだろうに。


 そこで、教官が現れた。俺たちは全員姿勢を正して整列する。


『おはようございます! 教官殿!』


「おう。今回お前らを呼んだのは他でもない。成績優秀者から順番に、魔法の伝授儀式を執り行う。それぞれ呼ばれたら部屋に入れ。順番は~……右からでいいか」


 まずフレイン、お前だ。と教官に呼ばれ「はい!」とフレインは入室する。


 それから少しして、飛び上がるような様子でフレインが外に出てきた。


「やったぜおい! お前ら! オレは炎魔法だ! 英雄の入り口に立ったぞ!」


 炎魔法。非常に人気の魔法だ。攻撃力に優れ、応用力も高い。こりゃ本当に騎士団入りをするかもな。


 他の連中も、続々と指名されて魔法を授かっていく。水魔法。水魔法、風魔法……。


「次、ウェイド」


「はい!」


 俺は教官の指示に従って入室しながら、考える。


 魔法には様々ある。フレインが伝授された炎魔法なんてのは大当たりも大当たりで、他にも回復が出来る水魔法、防御の強い土魔法、機動力の高い風魔法なんかが人気どころだ。


 エレメンタル、と呼ばれる火、水、土、風は当たりと思っていい。そこから遠ざかるほど、一般的には外れと言われるような魔法になっていく。


 そんな事を考えながら、俺は魔法伝道師の下に跪いた。魔法伝道師は教会から遣わされた、魔法を持たないものに魔法を授ける人だ。大抵が貴族で、口も利けないような存在でもある。


「あなたが、ウェイドですね」


 呼ばれて、顔を上げる。美しい女の人だった。真っ白な法衣に長い金髪。思わず生唾を飲み下す。


「私はテレス。あなたに、魔法を伝授するものです。―――右手を」


「はい」


 右手を差し出す。複雑な形をしたナイフで、魔法の印を刻まれる。痛みはあるが、耐えた。終わる。手の甲に、血の文様が浮かんでいる。


「では、祝詞を上げてください」


 催促され、俺は言った。


「『我、神に右手を差しだしたり。我が右手は此度の印にて、神と同化せり。故にこそ応えたまえ。我が右手に宿りし神よ。その名は何か』」


 右手の文様の中央に空いたスペースに、痛みが走った。「く」と歯をくいしばって耐える。そして浮かび上がった文字を伝道師が読み上げた。


「ウェイド。あなたに宿った神は、ニュートンの名を冠する神のようです。すなわち、あなたの魔法属性は―――ジュウリョク」


「ッ」


 俺は顔を上げる。それは、俺の知る限りワーストに近い大外れの魔法属性。通称、『ノロマ』魔法。自分の動きをノロマにすることしかできない、最悪の魔法だ。


「ジュウリョク魔法。それが、あなたに宿った魔法です」


 伝道師の申し訳なさそうな顔を見ながら、俺は思う。


 魔法ガチャ、グロすぎ、と。











 ……あれ? ガチャって何だ?











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