霊感だけ強い俺と5体の地縛霊の戦い
太郎丸
第1話 俺にどうしろと?
アナウンスと共に目覚める。思いきり伸びをした。あくびで全身に酸素が補給され、心地良い。
機械音声を聞きながら、駅の改札を抜けると、町の様子は5年前とだいぶ様変わりしていた。いくつかの飲食店がなくなり、通行人の数も減っている。新しく見つけたのはゲームセンターくらいだ。あの店はVRゲームを早い時期から導入したことで一時話題になったが、コロナの影響をモロに受けやすいタイプの店なので、今でも集客力を維持できているのかはわからない。
約束の公園に着くと、父が母を背負い、背中のストレッチを手伝っていた。父は2年前に腰を痛めたと言っていたが、あの様子なら大丈夫そうで少し安心。
「よぉ、春信。久しぶり」
友達のようなノリで父が話しかけてくる。思春期時代はこのノリに反抗していたが、会社員としてめまぐるしく過ごすうちに、そんな気力はどこかに行ってしまい、気にならなくなる。
「元気そうじゃん。今日も散歩?」
「違うわよ。お父さんがバードウォッチングしたいなんて言い出すからついてきたの」
父の背中から下りた母が肩を回しながら言った。還暦にそろそろ届く年齢のはずだが、運動習慣があるぶん、年齢の平均より可動域が広い。
「いいじゃないか。最近のアプリは便利なんだぞ。今日は良い天気だし」
「もう雲が増えてますよ」
「それより、ほい」
俺は母に保ってきた袋を手渡した。
「まあ、美味しそう」
口が裂けんばかりに笑みが広がる。食い気が我が家で一番強いのは母だ。俺が成長期の頃さえ、大食い対決を挑んだら負けていたに違いない。
「京都の八つ橋、好きだって言ってたの思い出して」
「じゃあ、後でお茶と一緒に頂きましょう」
「春信、腹減ってるか?」
「うん。ペコペコ」
「中華でいいか?」
「そうしましょう」
「お前じゃなくて春信に聞いたんだが」
「ノブちゃんも良いって言ってるわよ」
父母とやり取りをするうちに、自分の中に安堵の気持ちが広がっているのを実感した。両親はいつも通りのようだ。無理にいつも通りを装う雰囲気もない。コロナは二人の心身には大きな影響を与えなかったのかもしれない。脳天気だと、得をすることもある。帰省する前は今行っても良いものか懸念していたが、久しぶりに再会できて顔も見れたのはありがたい。
俺の安堵の気持ちは中華レストランでの父の発言で木っ端微塵になった。
「春信、地縛霊をなんとかしてほしいんだが?」
「は?」
ここから俺の地獄の戦いが始まる。
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