断食前夜を思い出し

第1話 ゴムウエストなのに

　ウソでしょう！

　これも、それも！

　見た目、そんなに体形変わってないはずなんだけど、どうして、お腹周りだけ、こんな苦しいの？

　第一、これ、ゴムウエストなんだけど......

　私、穴井真知子の働いている格安食品スーパーの制服は、衣替えが四季ごとに有る。

　今日から、春の制服期間がスタート。

　冬の間、よく分からないウィルスが流行っていて行動規制も有ったから、休日は家でゴロゴロしている事が多かったけど、まさか、それが、春の制服に衣替えする時に、こんなに響くなんて思ってなかった！

　公私共に認める大食いの私は、スカートを2サイズ、普通サイズと緩めのサイズを支給されていた。

　幸い、立ち仕事だから、お腹凹ませていたら、まあ何とかスカートに負担かけない感じで良いかも。

　姿勢も良くなるし、姿勢が良いと痩せるって言うし、何とかなりそう！

　お昼近くになると、お腹も空いて、自然にウエストが細くなったから、腹式呼吸も楽勝になった！

　私、別に太ったわけじゃなくて、久しぶりに着て、きっと、春服の着心地忘れていただけなのかも知れない。

　　私の昼休憩は、少し遅めだったから、目が卑しくなって、お総菜売り場で、お弁当の他に、旬の野菜の天ぷらのパックも買ってしまった。

　余ったら、家で食べてもいいしね......

　うん、まだ温かい揚げたての天ぷらは美味しい！

　タラの芽のこのエグ味がたまらな～い！

　シアワセ、シアワセ！

　私は、このシアワセな瞬間の為に、毎日、このスーパーで働いている！

　空きっ腹のおかげで、スカートに余裕が出来ていた事も忘れて、気付くと、買った物を全て平らげていた。

　なんだ、心配するほどでも無かった。

　お腹いっぱいでも、スカートは無事！

　やっぱり、私、太ったわけじゃなかったみたい。

　仕事に戻る前に、トイレで用を足そうとした時、つい腹部に力が入ったようで、不吉な音と同時に、急に解放感が広がった。

　　どうして、ゴムが......！

　ホックとかボタンなら弾けて取れる心配も有るかも知れないが、ゴムウエストの場合、伸縮自在だから安心と思っていたのに......

　ゴムの継ぎ目の部分から縫い目がほつれたようで、今まで息苦しいくらい締め付けていたウエスト部分が、クタッとだらしなく下がって来た！

　お腹周りがラクになったのは嬉しいけど、ちょっとこれは、人様の前に出るには、ブザマ過ぎる！

　大き目サイズのスカートを履いたから、ロッカーに残っているは、小さ目サイズの方......

　こんなにお昼食べた後に、これより小さいサイズが履ける自信無い。

　あっ、そうだ！

　着替えなくても、いい事思い付いた！

　確か、カバンに入れてたはず......

　今の私にとっては神様みたいな、安全ピン様！

　　安全ピンで応急処置完了！

　これで後、数時間くらい何とかなりそう。

　仕事はローテーションで、今日はレジ係。

　他に比べたら、力仕事が無いし、楽勝楽勝！

　と思ってたのに、お米10キロ......

　カゴからカゴへ移さなくてはならない。

　いつもなら、10キロくらい楽勝なんだけど、今日は、腹筋に力入れたくないのに......

　周りも忙しそうだから、他の人に頼むわけにもいかないし......

　よーし、ここは、息を思いっきり吸い込んで、お腹を凹ませて、

「よっこらしょ！」

　お米はもちろん、持ち上がったけど、想定外にも下ろした瞬間、気の緩みが出てしまったようで、安全ピンが曲がって外れ、スカートが腰骨までずり下がってしまった。

　目の前のお客さんは、笑いをこらえるのに必死。

　私も必死で、これ以上ずり下がらないように、腰をくゆらせたり、大股開きになって踊るような動きをしていた。

　お客さんが一段落着くまでは、この怪しい動きでレジ作業を繋いだ。

　やっと、客足が引けた所で、曲がった安全ピンを真っ直ぐにして、ウエスト位置を固定した。

　あ～、恥ずかしかった！

　もう、こんな思いはゴメンだわ～！