第2話 ①
わたしが慈炎に助けられてから一か月、見事に花を咲かせていた桜は散り、青々と瑞々しい葉が桜の木を埋め尽くす頃、わたしたちはこの『私立桜花台高校』の門をくぐった。
桜花台高校は、家から徒歩で15分。
文字通り見事な桜並木を少し上がった小高い丘の上にあった。
「てか、雨留のその能力、すげー便利な」
帰り道。
慈炎と鹿目とならんで歩きながらぽつりと慈炎がつぶやいた。
「慈炎のそのピアスと一緒だよ」
「やー、でも自由に色とかは変えらんねーからなぁ。
羨ましい」
慈炎が左耳に触れると、チャリ、と金色のわっかが小さな音をたてた。
わたしは周りから浮かないために、青い髪を神力で黒く変えた。
服も本当は自在に変えられるのだが、体育などで着替えるときに困るので、制服を購入し、始めて『着る』ということをした。
人間の服はややこしくて最初は着るのにかなり時間がかかったが、それさえもワクワクとして楽しかった。
もうすぐ憧れていたあの学校に行けるのだと、指折り数えて楽しみにしていた。
のだが……。
入学して一週間。
わたしはびっくりするほどまったく学校になじめずにいた。
神経をすり減らして、毎日ヘロヘロになりながらこの道を下るのが最近の日課になっていた。
「わたしは二人のそのコミュニケーション能力が羨ましい……」
「あはは。
まだ一週間だろ。
焦んなよ」
「雨留さまは学校どころか、下界にきてからも間がありませんし、これからですよ」
「うん、ありがとう」
そう言いながらも、わたしはうまく笑うことができなかった。
慈炎はこの誰に対しても壁がない性格で、最初こそ顔が怖いとみんな遠巻きだったが、今は休み時間、常に友達と談笑していた。
鹿目も、いつも通りのクールさなのだが、なぜかいつも女の子たちに取り囲まれていた。
そして、わたしはというと、80年の引きこもり生活のせいでコミュニケーションを怠ってきたしわ寄せを、今ここでもろにくらっていた。
友達と切磋琢磨し、笑い、泣くためには超えるべき壁がたくさんあるのだ。
みんなが当たり前にしていることは、きっと途方もない努力の上になりたっていたのだとわたしは身をもって知ったのだった。
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