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　朝の訪れを知らせるように鳴り響く耳障りな機械音が強引に耳に入ってきて私は目が覚めた。ずるずると体を起こすと鉛が体の中に入っているようにずっしりと体が重い。それと同時にズキズキと頭が痛んだ。その痛みに耐えつつベッドの側に置いている水の入ったペットボトルに手を伸ばして喉を潤した。動きたくないサインを出している体に鞭を打ち、重い腰を上げてから一通り朝にするルーティンを終え、外に出る準備を始めた。いつもよりスムーズに進んだ化粧を終えて、いつもより早い時間におばあちゃんに行ってきますと言って家を出た。今日の街はいつもより人通りが少なくて体に余計な力を入れずに歩いていれる事が救いだった。私はいつも行くネットカフェに行き、いつものやり取りをした。それもいつもより早く終わった。体の調子は良くないが、今日の私の頭は冴えているようだ。こうして私は朝、目を覚ましてから普段通りの習慣化した時間を過ごしていった。

　時間を持て余した私は、その足でお気に入りのあの公園へ向かった。あの日、生きる事に疲れていた私に師匠が手を差し伸べてくれた場所だ。師匠に救われたあの日から、あの公園は私にとって特別な場所になっている。最近ではバーで一緒に働いている京子さんとも随分と距離が近くなった思い出の多い場所だ。そこへ着くと、普段は見ないような黒猫がのんびりとそこを歩いているのが自然と私の目に入ってきた。この前に見た白い猫とも毛むくじゃらの猫とも違う、真っ黒な毛並みの猫だった。その猫の黄色い目と視線が重なると、私は無意識のうちにその猫に駆け足で近づいていた。そしてその流れで猫を抱き上げた。私はどうしてこんな行動をしたのだろう。猫は確かに好きだけれど、いつもはこんな大胆な行動はしない。その猫は驚くこともなく私に抱き抱えられた。私の腕に伝わるほんのりと温かい体温は、私の心を温めるように思えた。

　「お前も１人なの？」

　目が合う黒猫と私。どこか人間のような表情に見えなくもないその顔をじっと見つめて猫の背中をゆっくりと撫でた。猫が満更でもない声を出したので私も安堵した。

　「私も１人なんだ。お前と一緒」

綺麗で滑らかな黒い毛並みを撫でていると、猫はじっと私の顔を見つめた。あどけない表情で見つめられると、私は自分でも分かるくらい顔の力が緩んだ。

　「ふふ、何だよ。お前って言ったの、怒ってるの？」

猫が人間の言葉を理解出来るとは考え難いけれど、私の言葉を聞いた猫は、まるで照れた顔を隠すようにそっぽを向いた。

　「そういう態度、何だか私の知ってる人に似てるよ」

猫はそっぽを向いたまま、私の座るベンチの隣に寝転んだ。

　「まぁお前に言っても分からないよね」

猫に子守唄を歌うように私は呟きながら、その背中の黒い毛並みを撫で続けた。しばらくすると猫はリラックスしたのか、気持ちよさそうに目を閉じていた。気がつくと、少し遠い所に茶色の毛並みの猫と、真っ白な毛並みの猫が私を見ていた。やっぱりここは猫の憩い場なのだろうか。はたまたここの守り神が３匹いるのか。いい事を知った気がした私は、また１人でここに来ようと心の中で決めた。その時はまた、この黒猫がここにいるといいな。私はそう思い黒猫の頭を優しく撫でてベンチから立ち上がった。

　「あとは任せるね」

私は遠くの２匹にそう伝え、公園を後にした。なんだろう、とても心が軽くて、心身共にリラックス出来た気分だ。充実、という言葉が一番しっくりくる気持ちで心の中が満たされた。やっぱり私は猫が好きだ。特にさっきの黒猫が好きになった。特別だった場所が、今日でさらに好きな場所になった。ふと腕に触れると、黒猫に触れていた部分が体温という温もりを持っているように温かった。