第56話「反射区」

父「足の反射区を勉強していた時なんだが、経絡を感じたことがあるんだ」


娘「経絡? 実際に感じたの?」

父「そうなんだ。足の裏のあるところを押すと、足から頭まで、弱い電気のようなものが流れたんだ。足裏を押すとそれが流れて、押すのをやめると電気のようなものは流れなくなる。不思議だな……」


娘「それは、頭の反射区を押したの?」 

父「いや、頭ではなかったと思う。ずいぶん昔で、足の反射区を勉強し始めた時だから、はっきりと押した場所は覚えていないが、胃や腎臓に近い反射区だったと思う」


娘「頭が痛い人が頭の反射区じゃなくて、胃や腎臓あたりの反射区を押したら頭痛がとれたことがあるよ。たぶん、経絡だよ。実際に有るって話しだし」

父「俺も、あれは経絡だと思う。ただ、その時は、何度でも足裏を押せば足から頭までの経絡を感じることができたんだ。右足のすねの表面から体の表面をたどって頭までつながり、まるで体の表面に線があるように。しかし、翌日になると、足裏の同じ場所を押しても経絡を感じることはできなくなった」


娘「1日だけ?」


父「そう。1日だけ。翌日には消えてしまったんだ。まるで、お尻の静脈を押した時と同じように……」

娘「ひょっとして、お父さんは、お尻の静脈は反射区だったのではないかと思っているのかな?」

父「よく分かったな。さすが整体師だ!」


娘「お尻の反射区なんて聞いたことないよ」


父「俺も聞いたことはない。しかし、反射区は緊張状態の自律神経をリラックスさせるものだろ?」

娘「それは、そうだけど……」

父「排便すると、スッキリしてリラックスするじゃないか。ひょっとしてあるんじゃないだろうか?」


娘「おじいさんは、反射区は特定の場所につながるツボのようなもので、足裏の他に手にもあるし、のどにもあって、食べものを食べることでリラックスできると言ってたわ。お尻に無いとは言い切れないけど……」

父「犬や猫は、尻尾を見せびらかすように動かすだろ、尻尾を動かすことで肛門への血流を保つとともに、尻尾には反射区があって、動かすことでリラックスさせているのではないかと思うんだ」


娘「なるほどね〜っ、それは新しい発想だね。でも、あるかもしれない。反射区は押すと痛い所もあるけれど、腎臓の反射区は押しても痛くなくて、かえって気持ちがいいものね。肛門の後ろが、もし、反射区だとしても、押して痛くなくても不思議ではないわ」

父「あの当時、俺のお尻は、排便を嫌がっていた。たぶん内肛門括約筋の過緊張というのが起きていたのだと思う。それが1日で治ったのは静脈のうっ血が取れたのだと思うけど、緊張状態が取れるというのが反射区のような気がするんだ」


娘「おじいさんは、自律神経は交感神経と副交感神経に分かれるけど、均等ではなく、瞬時に交感神経が働くように緊張させる神経の方が多く、リラックスさせるのは難しいって言ってた」

父「人間も動物だから、昔は襲われたらすぐに逃げないと食べられちゃうもんな」

娘「緊張状態を解くために歩くことで足裏を刺激してリラックスしたのね。尻尾があれば尻尾を振ってリラックスか……」

 冬子は自分の尻尾があった部分を触ってみる。

娘「ここに反射区か……分かりづらいね。ここを押して便を出せないのが治ったの?」


父「そうなんだ。排便を嫌がっていたのが治ったんだ。そして、徐々に痔も回復していった。まるで肛門に新鮮な血液が流れてきたように」


娘「静脈の血流が回復して、詰まっていた血液の循環が良くなったんじゃないかと思うよ」

父「やっぱりそうか、尻尾のあった場所になごりとして反射区が残っていてもおかしくはないだろうが、人間の祖先はネズミのような生き物だから、ネズミの尻尾では犬や猫のように尻尾は動かなかったろうから、反射区は疑問だ……」


娘「本当にネズミのようなものが人間の祖先なの? サルじゃないの?」

父「テレビではネズミだったんだよな、どうやってネズミから人間になったかはわからないが……だいたい、人間もホモ・サピエンスだけじゃなく、何種類かいたらしいしな……」


娘「ネアンデルタール人とか?」

父「そう、ビックフットはネアンデルタール人の生き残りじゃないかって言う人もいるんだ」

娘「雪男ね、本当にいるの?」

父「遺伝子を調べたら、現代の人間もホモ・サピエンスの遺伝子の中にネアンデルタール人の遺伝子を持つ者も多くて、交配が行われていたらしいんだ」

娘「混血ね。お父さんも靴のサイズが大きいよね」

父「俺は29cmの靴だ……」

娘「ビッグフットだ。お父さんの遺伝子にもネアンデルタール人が入っているんじゃない?」


父「靴のサイズは27cmくらいだと、選べる種類が多いんだ。靴下も探すのが大変で買っても窮屈きゅうくつな物が多い」

娘「それ知ってる。お母さん、お父さんは、履かない靴下を貯めてるって言ってた」


父「ちゃんと29cmの靴下を買うんだが、きついんだよな〜 そういえば、サルのような尻尾のあった人間の子供もいたらしいぞ。それなら尻尾の部分に反射区があるかもしれない……」


娘「足の反射区は骨に向かって押すでしょ、あれは骨の内側にある血管を押すことで、血管の周りにある神経を押すって、おじいさんんに教わったよ。もしサルのような尻尾だったら、お尻の後側の血管の周りの神経を押して内肛門括約筋がリラックスしてもおかしくはないわね」

父「結果はわからないがな……そのうち調べる人が出るかもしれないな……」


娘「ふふふっ、お尻の反射区が流行るかもね?」

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