⑨ 歴史に学ぶ

 ドイツの鉄血宰相 オットー・フォン・ビスマルクが 1870年代明治期 西欧に訪れた岩倉使節団に述べた言葉に、

 「諸君らは 世界各国が礼節を持って

 付き合っているのを見ただろう。

 けれども、それは表面上のことに過ぎず、

 現実を弱肉強食だ。

 万国公法国際法は 全ての国の権利を保障すると

 されているが、実際には

 大国は有利となれば、それによって、

 不利となれば、武力によって

 物事を進めるだろう。」

というものがある。対象は いささか違うし、ニュアンスも多分に異なるだろうが、天皇制においても 表面上見えているものと現実は大きく異なり、それは微妙な均衡バランスの上に成り立っていた。日々 移り変わる世界の中で、直面する様々な課題に対し、常識や理念、正道・本道などばかりを固執・先行させるのではなく、現実を直視し 受け止め、有効な手段を模索・検討することが求められた。そして もし、将来的にが必要となれば、その決定をなしてもいいとも私は胸算するが、

 「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」と ビスマルクかの人物が言うように、混乱を避ける意味でも さらに歴史を学ぶ須要があった。


 9世紀後半、摂政(・関白)が置かれ始めた時節、第57代 陽成天皇が幼くして素行不良で退位させられた。代わりに 天皇として立てられたのが その大叔父にあたる光孝天皇(第58代)であるが、光孝天皇は自らが中継ぎだと思っていたことから 即位と同時に自身の子らを臣籍降下させた。

 しかし、時の権力者である関白 藤原基経とその妹である高子(陽成天皇の母)との仲が悪かったこともあって、陽成廃帝の同母弟(貞保親王)の即位は実現せず、光孝天皇が急死する直前、子である源定省を親王に復し、立太子の後 即位させた。それが 第59代 宇多天皇である。

 臣籍からの復帰は かの天皇の前例があり、その子である醍醐天皇(第60代)は はじめ臣籍として誕生、現在のところ 臣籍身分として生まれた唯一の天皇だった。

 ちなみに、前者が"学問の神様"菅原道真を重用した天皇であり、後者が 弟との兼ね合いなどから かの人物を失脚させている。


          「朱雀 「冷泉—花山

          |【61】|【63】65

光孝—宇多——醍醐——村上——円融—一条

【58】【59】|【60】【62】【64】【66】

       ∟斉世

        ‖      

   菅原道真—寧子


 なお、この国の正史,いわゆる「六国史」は光孝天皇までで編纂が一旦途絶え、以降は『大鏡』等が後の時代の記憶を留めている。『大鏡』の次は『今鏡』で、さらに追加の『増鏡』で歴史をリレー。『水鏡』は、成立年代自体は 『今鏡』の後だが、『大鏡』より前の時代をカバーしている。


六国史

 『日本書紀』:720年成立

   神代〜持統(第41代)

 『しょく日本紀』:797年成立

   文武(第42代)〜桓武(第50代)

 『日本後紀』:840年成立

   桓武(第50代)〜淳和(第53代)

 『続日本後紀』:869年成立

   仁明(第54代)

 『日本文徳天皇実録』:879年成立

   文徳(第55代)

 『日本三代実録』:901年成立

   清和(第56代)〜光孝(第58代)


四鏡

 『大鏡』:白河院政期に成立

   文徳(第55代)〜後一条(第68代)

 『今鏡』:高倉天皇期に成立

   後一条(第68代)〜高倉(第80代)

 『水鏡』:鎌倉時代初期に成立

   神武(初代)〜仁明(第54代)

 『増鏡』:南北朝時代に成立

   後鳥羽(第82代)〜後醍醐(第96代)


その他

 『栄華物語』:正編は後一条天皇の頃成立

   宇多(第59代)〜堀河(第73代)

 『日本紀略』:平安時代に編纂

   神代〜後一条(第68代)

 『扶桑略記』:1094年以降成立 皇円

   神武(初代)〜堀河(第75代)

 『愚管抄』:鎌倉時代初期 慈円

   神武(初代)〜順徳(第84代)

 『神皇正統記』:南北朝時代 北畠親房

   神代〜後村上(第97代)

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