32.領主の館にて
名前は知らないが、何度か顔を合わせ、話したことのある衛兵さんに連れられ、門の近くの詰所へ行く…かと思いきや、大きな館の所へやってきた。
「あれ?詰所ではないんですか?」
「えぇ、少し前に、もふたさん…失礼。もふた様をお呼びするように領主様から命じられまして。向かう途中であの騒ぎに立ち会った、ということです」
「なるほど」
この大きな館は街の北側。つまり俺の家とは噴水を通って真反対というわけだ。
…ん?領主に呼ばれてたの?いや、この前王族と知り合った訳だし、なんかしら行動あるのが普通か。
「フロー、戻りました。もふた様とお連れの方を連れてきました」
門番らしき人に衛兵さん…フローさんというのか。が話しかけると鉄柵で出来た門を開けられる。
「あれ?衛兵さんと呼んでましたが、衛兵ではなかったり…?」
「あはは。この街の警護をしているので衛兵で間違いありませんよ。ただ私は領主様の直属の部下でもあるだけで、色々と命令を受けたりしているのです」
なんと、領主様直属って兵士の中では偉いんじゃないか?
「かしこまらなくて大丈夫ですよ。もふた様は客人。私はただの案内人です」
「あ、はい」
「すごいな、もふた殿は。領主様から呼ばれるなんて。まだどのプレイヤーも領主様とコンタクト取れていないと聞くぞ」
「おや、そうなんですか。ではだいぶラッキーなんですね」
広い庭を通り、館の中へ。
おお、ホールも広い。赤い絨毯にシャンデリアと、いかにも豪華って感じの雰囲気だが、過剰な飾りはなくて好感を持てる。
玄関から少し歩いた所にある部屋に入る。
「領主様に会う前に、先程の事情聴取をしたいと思います。」
噴水にいると先程の人に絡まれ、助けてくれたのがミヤモトさん、と軽く説明をした。
「なるほど。まぁ元よりあなた方を疑っていた訳ではありませんのでそんなところかと思いました。さて。ミヤモトさま、申し訳ありませんがこの部屋でお待ちして頂いてもよろしいでしょうか。」
「えぇ。」
「ありがとうございます。何かあれば人を待機させますのでそちらへお伝えください。ではもふた様、領主様の所へ行きましょうか」
「はい」
今度は階段を登って廊下を進み、だいたい廊下の真ん中あたりにある部屋の前で止まり、ノックする。
「フローです。もふた様を連れてまいりました」
「入れ」
フローさんがドアを開け、中へ入る。
執務室かな?机に広げられた書類らしき紙を見ていた目をこちらへ向ける。
30歳くらいの細くも太くもない男性だ。領主としては若いのかもしれないな。
「よく来てくれた。この街の領主をしている、オーラだ。」
「ご存知かもしれませんが、時の旅人のもふたです。」
「そしてそっちが保護してる子達だな。大人の話は退屈だろう。ジージョよ」
「はい」
「子どもたちをマグのいる部屋へ。あの子もちょうど良い気晴らしになるであろう」
「わかりました」
「おっと、勝手に決めてしまったな。それで良いだろうか、もふた殿」
「あ、はい」
そのマグ様が性格悪くないことを祈ろう。何かあればクロがいるから大丈夫か。いや、オーラ様を見ている感じ悪い領主ではなさそうだけど。
「それで本題だが。先日早馬で王家から通達を受けてな。人となりを見ておきたかったのと、顔を合わせた方が色々と今後やりやすいと思ってな。」
「なるほど。」
「そして会ってわかった。うむ、お前さんはなんとも優しい雰囲気を感じるな。そしてその雰囲気は様々な人物を引き寄せるだろう。それが良い事でもあるが、危うくもある」
ふむ…。近付いてくる人が優しい人ばかりではないと忠告してくれているんだろうか。
「ありがとうございます。しかしどうしてそんな話を?」
「子どもたちがきちんと言うことを聞いていたのだ。慕われておるのだろう。信用出来るものと判断した」
そう言ったオーラ様は優しい顔をしていた。
「私からの話は終わりだ。そちらから何か聞きたいことはあるか?」
「そうですね…。先程『今後やりやすい』と仰ってましたがその意味は…?」
「何かあれば便宜をはかる、という事だ。逆にもふた殿にしか頼めないことがあれば頼むことになるかもしれぬがな」
「そういうことですか。わかりました」
信用して貰えた、もしもの時に頼れるアテが増えるのはいいことだな。俺にしか頼めないことというのはあるか分からんけど。
「話はそれくらいか?うむ、ではフローよ、マグの部屋へ案内してあげなさい」
「はっ」
マグ様の部屋に案内され、ノックして入る。
「あ、おにいちゃん」
「話し終わった?」
「あぁ、終わったよ。みんなはどうだった?」
「マグと友達になった!」
「初めまして。マグです。凄いです、街を救ったとか…!!」
目をキラキラさせて話しかけてくるマグ様。
金髪で将来イケメンになるとわかる整った顔立ちをした、小学生高学年くらいに見える少年だ。
「そんな凄いことはしてないですよ。戦闘出来ませんし」
「む…敬語は大丈夫です。気軽に話してください」
頬を膨らませていて可愛いが、少年である。
「自分に出来ることをしたと聞きました。戦場はあまりよく分かりませんが、ゴチャゴチャした中で自分に出来ることをするというのはすごいことだと思います!」
あはは…あんまり褒められると恥ずかしい…。
「あっ、お帰りの所でしたね。また来てください!歓迎します!」
「あ、うん。またね」
恥ずかしさとマグ様の勢いに乗せられて館から出る。
ミヤモトさんは用事があると先に帰ったようだ。
「マグ、もふにぃ褒めた、いいやつ。」
「そうですわね。裏を感じない純粋な感じで接しやすかったですわ」
なかなかうちの子達からは高評価みたいだな。仲良く出来たみたいでよかった。
いやー、色々あったな。そういえば検証の方はどうなったんだろう。
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お読みいただきありがとうございます。
王族だけじゃなくて、身近にも権力のある味方を用意しました。
領主さんはマトモなタイプの領主です。子持ちなので子どもに甘いし、子どもからの評価でその人となりを判断しがちですが
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