本場のカツオ
明日のツーリング計画を聞いたのですが、
「明日は走るツーリングや」
高知市の観光をどうするかを聞いたのですが、
「ああ、いらん」
「桂浜もパスで良いわ」
どうも話しぶりからすると、高知市内の観光も高松市内の観光も良く行ってるようです。
「あんなとこ、いつでも行けるやんか」
「バイクじゃないと楽しめないところに行かなくっちゃ」
それはそうですが桂浜ぐらい寄っても、
「あそこは高知に行ったら絶対連れて行かれるんよね」
「坂本龍馬の銅像は立派だけど、ああも毎度毎度じゃ、さすがにね」
何回来てるのやら。ところでお昼は、
「高知言うたらカツオや」
「お刺身とたたき食べなきゃ」
祖谷温泉は山の幸でしたからね。
「今夜も山の幸になるからカツオは絶対や」
朝になったら次の宿まで確保して頂いてました。でも高知でカツオなんてどこでも食べられるはずです。
「まあ、そうや。神戸でも食べれるし、東京でだって食べられる」
じゃあ、どこでも良いのかですが、
「だから高知の中でも、とくに美味しいカツオを食べたいじゃない」
そんなに差があるのかなぁ、
「あるで。高知のカツオ言うても、大きく分けたら二種類ある。一つは三陸沖とかに遠征して取って来るやつや。これは日数もかかるから冷凍や。もう一つが土佐の沖で釣ってきたやつや」
なるほど、近海物の方が新鮮で美味しいと言う事か、
「あははは、それほど単純な話やないで・・・」
カツオは黒潮に乗って回遊しますが、三月ぐらいに高知では初ガツオが獲れ始めるようです。これを上りカツオと言いますが、九月ぐらいから戻りカツオになり、
「十一月ぐらいが脂も最高に乗って旨くなるんやが、それ過ぎると冷凍物の方が美味しくなる」
今は近海物のカツオが美味しいわけか、
「そういうこっちゃ。そやけど近海物でも新鮮な方が美味しいんよ。生ものやから時間が経てばたつほど味は落ちる」
「そういうこと。今はカツオの旬の季節だから、獲れたてホヤホヤのカツオが食べられるはずなのよ」
なるほど。でもそんなものをどうやって、
「久礼に行く」
「久礼って須崎の先の・・・もしかして」
「そうや」
聞いたことはありますが、行ったことはありません。
「原田は行ったことあるか」
「ない。ユーチューブで見ただけだ」
翌朝はなんと六時起き。風呂を済ませて七時から朝食が始まり、七時半に出発とコトリさんたちに告げられています。ナビで確認すると久礼まで百三十キロで三時間と出ていますが、
「休憩を入れて三時間半ぐらいか」
「いや四時間見ていた方が良いだろう」
まず祖谷のションベン小僧を見に行って、そこから昨日走った道を大歩危橋まで引き返し、国道三十二号で高知をひたすら目指します。ボクたちだけなら高速も使えますが、コトリさんたちは原付ですからね。
「この道も悪くないな」
「バイクのツーリングなら、こちらの方が良いかもしれない」
今日はコトリさんたちが先行したいと言われ、高知市内を桂浜まで下って、そこから黒潮ラインに。一時間に一度ぐらい休憩を挟みながらこれはまさに快走。須崎の手前で横浪黒潮ラインに入り、
「こういう道は楽しみたいやろ」
「遅れたって一本道でしょ。次はここで休憩にするから」
今度はボクらが先行。
「今日はシーサイド・ツーリングだな」
「山道のワインディングも楽しいけど、海沿いの道もバイク乗りにはたまらないな」
横浪黒潮ラインはバイク雑誌に日本の名コース五十に選ばれたぐらい道で、太平洋の景色が素晴らしいだけでなく、ツイスティでアップ・ダウンを繰り返します。
「まったく遅れる様子がないな」
「どんな改造をしたら、原付があれだけ走れるのだろ」
改造と言えば驚かされたのがガソリン・タンクが二ヵ所あること。どうにも燃費が良くないらしく、二つを満タンにしてなんとか二百キロだとか。途中の休憩所で、
「これが武市瑞山銅像やな」
「これも見たかったんだ。だって高知で銅像で連れて行かれるのは、桂浜の坂本龍馬とせいぜい室戸岬の中岡慎太郎ばっかりだもの」
連れて行かれるってどういうこと。接待されるような年齢には見えません。横浪黒潮ラインから国道五十六号に戻り須崎を抜け久礼に入ります。中土佐町久礼の交差点を左折して進んで行くと、
「この辺だが活気があるな」
「駐輪場はこの奥みたいだな」
駐車場はいっぱいで、ふるさと海岸の無料駐車場に案内されました。歩いて五分ぐらいで大正町市場に戻れます。
「立派ね。カツオの木彫りの看板がイイね」
「大正天皇の下賜金がなんで出たんやろ」
「昭憲皇太后の影響じゃないかな」
市場はアーケードになっていますが、これが木製のなのが良い味を出しています。それより何より人、人、人。買い物客をかき分けてになります。
「明石の魚の棚みたいやな」
「久礼の方が小さいけど活気は上かも」
コトリさんたちは、どの店で買おうか見て回っているようでしたが、
「ここにしよう」
勧められるままにカツオのたたきとお刺身、
「アオリイカとウツボのたたきも美味しそう」
これを皿に盛ってもらって向かいの食堂に。味噌汁とご飯を頼んで、
「さすが久礼や」
「お塩が最高」
塩でお刺身を食べたのは初めてでしたが、
「塩で刺身は初めてなんか。塩でも美味い刺身はホンマに美味い刺身やで」
「でも醤油で食べても美味しいよ」
同じカツオかと思うほど味が違います。
「ウツボのゼラチンのところはいけるな」
「こんな透明のイカはそうは食べられないよ」
「ウルメイワシの刺身なんて食えるのはここだけかもしれん」
食堂を出た後も串焼きを買って頬ばりながら、
「カツオの心臓もなかなかやな」
心臓はチチコとも呼ぶそうですがコリコリしてなかなかです。
「ハランボも美味しい」
カツオの心臓も初めて食べましたが、ハランボはカツオの腹のあたりだそうで、
「マグロで言うたらトロや」
塩焼きのようですが表面がパリッとして、かむとプリっと身は柔らかくフワっです。口の中にはカツオの濃厚な脂と旨味が広がります。よく食べるのは昨日から知っていますが市場を出てからも、
「くれ天もいけるな」
「ここのドーナッツも懐かしい味がする」
まあ、次から次へと。それから名残惜しそうに、
「また来よな」
「絶対よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます