フェティシズム・フロンティア・オンライン〜可愛い女の子が大好きな私は【憑依】スキルとおっぱいパワーで成り上がる〜

梅谷涼夜

プロローグ

『目覚め』

 女の子が馬乗りになって、女の子の首を絞めている。


 上に跨る純白の服の子は相手の息の根を止めるべく、容赦なく漆黒の服の子の首を絞めていた。


 これは女児向けアニメのワンシーン。


 彼女たちはまだ中学生。

 活発で女子サッカー部に所属するパワー漲る黒い方のスミエと、茶道を嗜む大和撫子おっとり系の白い方ハク。


 その二人が身にまとう衣装はふりふりで女の子的な可愛さと、戦うための動きやすさを兼ね備えた特別な魔法。


 悪い奴らをやっつけるため、普通の女子中学生から変身イメージチェンジする彼女たちは、女の子の憧れで希望の象徴だった。


 大親友同士、そして戦うヒロインアニメの主人公である二人が殺し合っている。


 ハクの指がスミエの細い首に深く沈み込む。スミエは苦しみに喘ぐも、気道を押し潰された状態では掠れた吐息が漏れ出るだけ。悲痛な叫びも声にすらならず、黒いヒロインは小さく空いた口の端からだらりと唾液を漏らしていた。


 彼女たちは無理矢理戦わされている。敵の能力によって身体を支配されてしまったハクは自らの意思で抵抗することも叶わず、敵にされるがまま大親友を傷つけている。


 作品ヒロイン同士がガチで戦い合う姿なんてものは、おおよそ地上波で繰り広げられていいものではない。少なからずそういうシーンがある作品もあるにはあるが、大抵は然るべき時間帯に然るべきチャンネル帯で行われるものだろう。


 しかし、このシーンは爽やかな日曜の朝、正義のヒロインの活躍に胸躍らせるいたいけな女の子たちに向けて堂々と放映された。その上、人気作品であったため、多くの視聴者がヒロインたちが同士討ちする様を目撃することとなったのだ。


 それでも、凄惨なシーンは終わらない。


 馬乗りの白いヒロインは首絞めを解いたかと思えば、その手で寝そべる相方の顔を全力で打ちつける。誰かを助けるための拳で、誰よりも大切な仲間を幾度となく殴りつけている。


 唖然としてしまった。戦闘の作画と声優さんの演技が凄みに拍車をかけ、衝撃的すぎて幼児おさなごだった私は言葉も出なかった。


 固い絆で結ばれていたはずの二人。彼女たちはどんなに傷つこうと、どんなに強大な壁が立ちはだかろうと互いに手を取り合い、互いを想い合いながら立ち上がってきた。


 しかし、この場にそんなものはない。

 二人の熱く尊い関係性は、敵の幹部でも、劇場版の特別な敵でもなんでもなく、ただのぽっと出の怪人の能力でいとも容易く蹂躙されてしまったのだ。


 二人史上最大のピンチと評されたこのシーンだが、後の世の評価は「作品テーマの否定」「私の推しはそんなこと言わない」「公式の作品凌辱」と散々なものであった。


 リアルタイムでテレビに齧り付いていた私にしてみても、半分泣きそうになりながらそのシーンを観ていた。そのときの気持ちは十年以上経って、女子高生となった今でも忘れない。いつもお淑やかなハクが表情をだらしなく歪ませ、力の限りスミエをボコボコにしている。いつも負けない二人が負けそうで、思わず目を逸らしたくなるほどだった。


 心の深いところで繋がっている二人が敵の力によって引き裂かれてしまった。それが辛くて、悲しかった。


 しかし、私はテレビから目を離すことができなかった。観ているのが辛いのに、なぜか画面に惹きつけられていた。


 清楚なハクから出てくるはずのない口汚い言葉にドキドキした。彼女が自分の胸を彼女自身の手で乱暴に揉みしだくのを観て、私の胸もムズムズした。乗っ取られそういうことを無理矢理させられていると思うと、私の身体が熱を帯びてゆくのを感じた。


 時既に遅し。心のどこかに恐怖の他にもう一つ、感情が芽吹いてしまっていたのだ。


 きっかけなんてのは些細なもので、じんせいが変わってしまうターニングポイントは案外身近なところにある。


 誰かの言葉に感銘を受けたとき、美しいものを目にしたとき、壮絶な体験をしたとき。個々人によって差はあっても、その経験に貴賎の差はない。


 私にとっては女児向けアニメを観ていたときだったというだけのことであり、それも人生における立派なターニングポイント。

 あのシーンが幼かった私の魂に生涯治ることのない傷痕を刻み、敵が使った能力によって私の人生も歪めてられてしまった。


 その能力の名は、私の魂に刻まれた欲望せいへきの名前は──『憑依』。


 この出会いに起因して私の人生は狂っていくことになるが後悔はしていない。むしろ感謝しているくらいだ。


 だって、心から好きだと言えるものを見つけることができたのだから。

 そしてこれこそ、私が誰にも負けない才能ちからに目覚めた瞬間だったのだから──。

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