05
舞花の反応がありませんので私は修二お父様と視線を交わして話を進めることにいたしました。
「あと安心してくださいませ、遺伝子上の両親も秘密クラブで働いてもらうことになりました。そうでなければ命を頂くところなのですが、年齢的にも需要があまりないのが困りどころですわね」
「秘密クラブでは完全裏方になるけどな。まあ、普通に稼ぐよりは高い給金を貰えるんだからましだろう」
「……なによ」
「どうかなさいましたの?」
「なによ!結局全部雪花が持って行くんじゃないの!アタシが何をしたって雪花にか敵わないんじゃないの!」
「それは勉学のことを言っているのでしょうか?それともこの状況の事でしょうか?」
「全部よ!何もかも雪花が悪いのよ!」
「随分な言いがかりですわね、私は私なりに努力をして今の地位にいるのであって、その努力をしなかった舞花に何かを言う権利はございませんわよ」
「アタシだって努力したわよ!」
「でしたら努力の方向性が間違っていたのではありませんか?」
まあ、最後まで大人しくしているとは思いませんでしたけれども、また全部私のせいにされてしまうのでしょうか?面倒ですわね。
「よろしいではありませんか。今後の人生は舞花を見てくださる殿方に可愛がっていただけるのですよ」
「んなの、いらないわよ!アタシはあんたが絶望する顔が見たいのよ!」
「……それは無理ですわね。少なくとも今の私の状況で絶望するようなことは起きてはおりませんもの」
それこそ、宗也様や修二お父様に捨てられてしまいましたら流石に絶望いたしますけれども。今のところその様子はありませんものね。
「アンタのそういうところが嫌いなのよ!いつだって平気だって顔してて、くそ生意気なのよ!」
「顔のことを言われましても困ってしまいます」
双子なのですから作りはほとんど同じですしね。
結局、舞花はその後も叫び続けましたが、ほとんどが理解不能な内容となっておりますので割愛させていただきます。
ああただ、同じ顔が笑ってるのが気に入らないと言っておりましたわね。一体どういうことなのでしょうか?
* * *
「とまあ、このような結末になりましたのよ宗也様」
「そうかご苦労だったな」
「いいえ、私の遺伝子上の妹のしでかしたことの後始末ですもの、私がしなければなりませんわ」
私はいつものように宗也様に抱っこされた体勢で今回の件の報告をいたします。宗也様の顎が肩に乗せられてくすぐったいのですが、ここは我慢ですわ。
「まあ、おかげで秘密クラブの会員も増えたしな、予想外の収益も出た。しかし、自分と同じ顔が笑っているのが気に入らないというのは……」
あら?宗也様が考え込んでしまわれましたわね。
「どうかなさいましたの?」
「いや、これは秘密クラブの方からの報告なんだが、新しく仕入れた玩具が鏡を見てはケラケラと笑うんだそうだ。それが不気味で、そのおもちゃの部屋には反射するような物を置かないのだが、プレイ中にそう言った反応をすることもあって困っているという報告も上がっている」
「まあ、そうなんですの?ケラケラとですか……、記憶にある限り私はそのように笑ったことはございませんわね」
「俺もそんな風に笑う雪花は想像できないな」
一番古い記憶をたどりましても、そのような記憶はございませんわね。いったいどのような場面を舞花は想像しているのでしょうか?
ともうしますか、舞花は精神崩壊を起こしているようですわね。その方が幸せなのかもしれませんけれども、遺伝子上の妹がお勤めを全うできないのは大変に遺憾ですので早く治るとよいのですけれども。
「宗也様、確か秘密クラブの玩具のケアをするためにそういう医師を派遣することもありましたわよね?舞花に医師を派遣してみてはいかがでしょうか?もしくはカウンセリングとか」
「そうだなぁ。今後の仕事に影響する場合は考えたほうがいいな」
道具の手入れは必要ですものね。
「ところで宗也様」
「なにかな?」
「今度皆でカラオケ屋というところに行こうという話しがあるのですが、宗也様もご一緒に行きませんか?社会見学にいいと思いますのよ」
「カラオケか。警備の問題があると思うのだが…まあいいか、貸し切ってしまえばいいんだしな」
「ええ、その予定ですわ。なんでも順番に歌を歌う場所なのだそうですわ。在原のグループでも経営しておりますが、実際に行ったことはございませんし、一度体験してみるのもいいと思いますの」
「ああ、雪花の言うとおりだ」
「楽しみですわぁ。そのためには総代のお仕事と玉串のお仕事を片付けなくてはいけませんけれどもね」
「それが一番大変だな」
「宗也様は六年になるまで総代を続けるおつもりなのでしょう?私もずっと宗也様のパートナーとして頑張る所存ですのよ」
「それは心強いな。もっとも、そのぐらいでないと困るんだが」
「ふふふ」
そうして笑ったときに一瞬だけ思い出しました。
「そういえば」
「ん?」
「ケラケラでは無いと思いますけれども、ずっと幼いころに遺伝子上の父親に私だけ褒められた時に笑ったことがあったような気がいたしますわ」
「……まさかそれが原因か?」
「他に思い出せませんし、そうなのかもしれませんわね」
「下らないな」
「そうですわねぇ、そんな些細なことでトラウマになっているのだとしたら、どちらにせよ舞花はこちら側の人間にはなれませんでしたわね」
「ああ、その点雪花は十分にこちら側の人間として合格だ」
「嬉しいですわ、宗也様」
ねえ舞花、貴女は所詮負けてしまったのですわ。
私ではなく自分自身に、ですけれども。人のものを奪うのではなく、自力で手に入れる努力をすれば、舞花もこちら側に来れたかもしれませんのに、本当に残念ですわね。
せっかくの双子の利点が利用できなくなってしまって本当に残念ですわ。
* * *
「雪花はね、アタシのために存在してるの。アイツのものは全部アタシのものなの。そうじゃなくっちゃおかしいの」
「どうしてそう思うんですか?」
「どうして?どうしてそんなことを聞くの?それが純然たる事実だからそう言ってるの」
「では、雪花さんがいなくなってあなたはどう思いましたか?」
「雪花がアタシの前からいなくなるわけないじゃない。永遠に雪花はアタシのものなんだから」
「雪花さんのものが舞花さんのものではなく、雪花さんが舞花さんのものなのですか?」
「……そんなのどうでもいいのよ。とにかく雪花のものはアタシのものなの。人でも物でも立場でも全部アタシが貰わなくちゃいけないの」
そんなカウンセリングの内容を聞いて私は思わずため息を吐き出しました。マジックミラーがある性か、舞花はずっと笑っています。にっこりと、まるで私が微笑んでいるように笑っているのです。
話しに聞いたケラケラとは違いますが、確かにこれは不気味かもしれませんね。
といいますか、舞花ってば随分と心が病んでしまっていますわね。
「……ねえ猛は?」
「息子さんでしたら在原の分家に引き取られて育てられていますよ」
「アタシのものなのに!猛はアタシが生んだアタシのものなのに何で勝手に持って行くのよ!」
「子供はものではありませんよ。育児環境がよろしくなかったため保護をしたと記録にはあります」
「アタシのものなのに!勝手に持って行ったんじゃないの!あれは、アタシが生んだアタシが作ったアタシだけのものなのよ!」
なるほど?母性というか所有欲があると言ったところなのでしょうか?それはそれで問題がありますわね。
ともあれ、このカウンセリングを続ける意味があるかはわかりませんが、続けていくしかありませんね。遺伝子上の妹として、私の役に立ってもらわないといけませんもの。
さて、今日はこれから宗也様とお出かけですわね。いつまでもこんなところにいても意味はありませんし、早く行くと致しましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます