ぼくは
ある噂を耳に挟んだんだ
お前は誰だと言い続けると
自分がナニモノか分からなくなるって話だった。
僕は帰宅すると早速姿見の前に立ったんだ
お前は誰だ
鏡の向こうの僕に質問したんだ。
向こう側の僕は返事を寄越さなかったんだ。
ただ僕の仕草を猿真似するだけだったんだ。
何も起こらない事に腹を立てた僕は
何度も何度も繰り返したんだ。
お前は誰だお前は誰だお前は誰だ
向こう側の僕は期待に応えてくれない。
僕はこれを日課にすることにした。
それから毎日帰宅すると姿見の前に立つんだ
今日で四十六日経ったんだ。
鏡の僕は僕にいつもの質問した。
お前は誰だ
僕は僕だ。僕は答えた。
僕が僕だ。僕はそう返した。
あぁ、そういう事だったのか。
僕は納得すると前のめりに倒れたんだ。
遠くでセミの声が聞こえた気がしたんだ。
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