スキル持ちが現実世界で命懸けのゲームをする話

水原泉

第1話 リアルレイドゲーム

第1話

「ねぇ、そろそろ起きて……」


(はぁ……またか。あぁ……本当に僕は……)


「朝ごはん、作っておいたからちゃんと食べてね。」


「ありがとうございます……」



僕の名前は神崎優理。17歳。

都内の学校に通うごく普通の高校3年生だ。


ただし、異能力(スキル)持ちである。


とは言っても、この世界でスキル持ちは特別珍しいことでもない。

何らかの能力を持って生まれてくる人は世界の全人口の3〜4割程度存在する。


スキルはほとんど何の役にも立たないものから、生活を少し豊かにするもの、世界を脅かす脅威的なものまで多種多様だ。

そのような強大なスキル持ちは軍事利用されたりもする。

現代の国力は科学技術に並びこのスキルが重要視されている。

それ故スキルを他人に明かさない人も多いのか、生活自体はわりと普通で、ファンタジー世界のような厨二心を擽るシーンは少ない。



そして、今僕の横で女性が寝ているのも僕のスキルである『暴食(グラトニー)』の恩恵だ。


暴食の効果はその名の通りあらゆるものを食すことができる。

相手の心を食すと、このように自分の思いのままに人を操ることができる。

もちろん細かい制限や発動条件などはあるが、相手が非能力者の場合ほぼ無条件に近い。


強力なスキルには代償を伴うものも多く、昨晩僕がこうして女性を求めてしまったのもそれが原因である。

具体的には不定期に精神的飢餓状態になるのである。

この状態になると無意識的に他人を求めてしまうのだ。


ちなみにこの女性は美咲春花 26歳。

僕が通う高校の担任の先生だ。

若くて美人でそれでいてどこか幼さを感じさせる可愛さもあり、学校では男子生徒から絶大な人気を誇っている。


そんな人が朝起こして朝食まで作ってくれる……


スキルとは素晴らしいものだ。

多少の不便など潔く受け入れよう。


「私は職員会議があるから先に行くね。遅刻せずにちゃんと来るのよ!」


「わかってますよ。学校での先生にも早く会いたいので遅刻なんてしませんよ。」


「もう……!! からかわないで……!!」



頬を赤らめながら強く否定したが、満更でも無さそうなその表情を見ると心の底から思う。


(これがスキルじゃなかったら幸せなんだろうな…)


そういう意味ではこれも代償の一つなのかもしれない。



「とりあえず学校行くか。」



そんな日常と非日常の間のような生活を僕はそれなりに過ごしている。


それがもうすぐ崩れ去ることになるとは露知らず……。



現在、僕は高校生でありながら都内のタワーマンションで一人暮らしをしている。

両親が残した資産とネットビジネスなどで稼いだお金で一生暮らしていけるくらいの蓄えはある。


母は幼い時に他界し、父は国内有数の起業家であったが、突然全ての権利を僕に託し、数年前から音信不通になってしまった。



しかし、父には感謝している。

あらゆる知識や技能を授けてもらい、多少の虚しさはあれど、成績も学内トップで、容姿もそれなりに恵まれているお陰で、それなりの人生を送ることができている。


もちろんスキルについても様々なレクチャーを受けている。


(まぁ、日常は平和だからバトル系のアニメのような戦闘経験とかはないのだが…)









キーンコーンカーンコーン




今日も退屈な授業が始まる。

別にこんなもの受けなくてもテストはほとんど満点を取れるので正直時間の無駄でしかないが、僕も男子だ。高校3年生の新学期、淡い期待をしないでもない年頃なのだ。


もちろん、スキルを使えばそんなことは簡単にできるのだが、そういうものではないのだ。


そんなことを考えていると


「なぁ優理……!! 昨日の五〇分の△嫁見た?」


いつものように隣の席のデブが話しかけてきた。


「見てない」


見ていたが、面倒なので軽く流した。



雑な対応をしたが、彼はこの学校で唯一友と呼べる存在だ。

竹田丈、幼なじみで二次元にしか興味がない言わゆるオタクだが、超人的なプログラミングスキルを有しており、僕がネットビジネスで成功したのも丈の協力があってのものだ。

友達の少ない僕にとっては、友人としてもビジネスパートナーとしても良い関係だと思う。


もちろん高校生がそんな大金を稼いでいることは周りには口外していないので、表向きは成績優秀で女子からもそれなりにモテている(スキルの効果)僕と、太ったオタクの丈が仲良くしているのは、傍から見ればかなり異色な光景なのかもしれない。







キーンコーンカーンコーン




そうしている間に一日の全ての授業が終わった。



部活動をしていない僕は即帰宅し、いつものようにPCの電源を着けた。


すると、一通のメールが届いた。

差出人は不明。


恐る恐る開封してみると……


まるで停電のように急にPCの電源が落ち、一瞬ビクッとしたが何も無く、とりあえず電源をつけ直そうとした次の瞬間……!!



「こんにちは!!神崎優理君だね!?」



真っ黒な画面から立体映像が映し出され、ピエロのようなメイクをした道化師が立っていた。


「なんだ…!?これは…!!??」


ハッキング?何かのスキル?リアルタイムの映像なのか?

刹那の間に様々な推測が頭の中を飛び交う。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないかぁ!君は頭が良いから今この状況について色々なことを考えているんだろうけど、」



「お前は何者だ!?これはスキルなのか!?何故僕のことを知っている!?」



「わぁ〜〜〜!人の言葉を遮っておいて凄い質問の量だねぇ」



「くっ……」



「君のことはよ〜く知ってるよ。こっちの世界では有名だからね、君も君のお父さんも。」



なんなんだこいつは……

父が消えた件と何か関係あるのか……

僕が知らないところで一体何が起こっているんだ……

こいつは何を知っているんだ……


日頃頭がキレる人間でも、本当に突拍子もないことが起こると思考というのは随分簡単に停止してしまうのだと思った。



「色々気になることは多いと思うけど、要件を簡潔に伝えるね!神崎優理君。君にはリアルレイドゲームに参加してもらうよ!」



「……!?」



「今、世界中の能力者達に参加してもらってるゲームさ!

ルールは簡単!クエストに挑んでクリアすれば報酬のポイントが貰えて、失敗すれば死ぬだけの超〜簡単なゲーム!面白そうでしょ!?」




「ふっ、そんなものがまかり通るわけがないだろ!」



「ちなみに成功報酬のポイントはこの世に存在する物の大半を買えるんだ!大きなお家や高級車!もちろん現金を買うことも!」


人を小馬鹿にしたような話し方が癪に障るが、この道化師との会話の中から少しでも情報を引き出したい。



「そんなものの為に命を懸ける馬鹿がいるとは思えないがな。」



実際、人が何に価値を感じるのかはそれぞれだが、それらは全て命あってのものだ。

たかがゲームで失敗すれば命を落とすというのも疑わしいが、この得体の知れない男の言動には現実味を感じさせる何かがある。



「あぁ…あと、君のお父さんの情報もポイントで買えるよ。」



「何だと!?父さんが関わっているのか!?」



「さぁね。それが知りたければゲームを勝ち上がることだね。どう?参加する気になった?まぁこのメールを開いた時点で拒否権はないんだけどね……!!」



状況が飲み込めない。

僕はランダムで選ばれたのか?

それとも何者かに目をつけられていたのか?


だが、恐怖よりも不思議と好奇心や知的欲求とも呼べる感情が自分の中で大きくなり始めていることに気が付いた。



「そのゲーム、クリアしたらどうなる?」




「ん〜〜〜、まぁ大抵の願いは叶うんじゃないかな!とりあえず細かいゲームの詳細はスマホのアプリで読んでおいてね!だいたいのことはそのアプリでできるから!!それじゃ死なないようにファイトだよ〜!!」




ーーーブチッーーー



道化師は姿を消し、PCの画面が元に戻った。

それと同時に一気に緊張が解け、ベッドに横になった。


数分前の夢のような出来事の余韻を引きずりながら、なんとなくスマホを開くと、見覚えのないアプリが入っていた。


〝リアルレイドゲーム〟


どうやら、先程の寸劇のようなものは夢でも幻でもなかったようだ。


僕はとてつもなく大きなことに巻き込まれたのだと、この時初めて自覚したのであった。






一睡もできなかった……

眠い目を擦りながら学校へ向かう。


僕はあの後ゲームのルールを何度も読み、勝ち抜くための作戦を朝までシュミレーションしていた。



〝リアルレイドゲーム〟


詳細


・敵プレイヤーを殲滅すると報酬としてポイントが貰える

・報酬のポイントで何でも買える

・クエストをクリアするとボーナスポイントが貰える

・ただし、所持ポイントが0になるとプレイヤーは死亡

・何もしなければポイントは毎日減る

・1プレイヤー1枠の招待枠を持っている

・ギルドを組むことが可能

・ギルドメンバー間ではポイントの譲渡が可能

・ギルドはリーダーを立てなければならない

・最終的な勝者は1人もしくは1ギルド



要約するとこんな感じだ。


つまり、他のプレイヤーを殺した報酬として自由を手にする能力者同士のデスゲームというわけだ。


運営によると、毎日何百人もの能力者の出入りがあるようだ。


もちろん出る方は死を意味するのだが……


そして入る方も最後の1人にならない限りは結局同じ結末なのだが、恐らくゲームの規模から考えてかなり長期戦になることが予想できるので、命や人生を丸々賭けられる人が多いのだろう。



とまぁ、ゲームについての整理はできたが相変わらずわからないことが多すぎる。



「学校に着いたら、丈に話してみるか。」





昼休み



いつもなら食堂て学食を食べるのだが、今日はパソコン部の部室で昨日のことを丈に話した。



「なぁ優理、これって相当ヤバくないか??

だって、こんなに大掛かりな殺人ゲームが全く問題になってないって、かなりデカい組織が絡んでるんじゃないか?」




「あぁ、そうだな。でももう参加してしまったものは仕方ないだろ。とりあえず、アプリとメールの解析を頼む。僕はゲームを進めながら運営について探ってみる。」




「俺は別にいいけど、優理本当に大丈夫?お父さんも関わってるっぽいし……」




「ありがとう、僕は心配ないよ。丈も危険を感じたらすぐ身を引いてくれ。」



「うん、わかったよ。」






放課後、僕はピアノを弾くために普段使われていない第二音楽室へ向かっていた。


反芻思考に陥っている時はピアノを弾いていると、自然と考えが纏まることがあるからだ。



そんな道中、

「神崎君、ちょっといいかしら。」


声をかけてきたのは同じクラスの伊藤玲緒菜だった。


同じクラスと言っても彼女は超絶美人で男女問わず人気のある学校のマドンナ的存在なので、あまり周りと関わらない僕とは縁遠い存在だった。

そんな彼女が向こうから話しかけてきたのだ。



「何か用?」



「別に用ってほどのことじゃないけど…ちょっと、あなたのピアノ聴かせてくれないかしら……と思って」



「それはいいけど、急だね。ていうか何で僕がピアノ弾くこと知ってるんだい?」



「なっ……!!面倒くさいわね!!去年の合唱コンクールの時あなたピアノ弾いてたわよね!?それよそれ!!」



「あぁ、なるほど。」



そんなことまで覚えているなんて流石は皆の伊藤さんだ。




放課後の第二音楽室。


僕が無言で弾くピアノをただひたすらに聴く彼女。


その表情はどこか寂しげで普段クラスの皆に見せている表情とはなんとなくどこか違うような気がした。



(皆の憧れのマドンナもこんな顔をするんだな…)



そう思うと、演奏しているこちらが少し得をした気分になった。



「そろそろ帰るか……」



「そうね……いい演奏だったわ。ありがとう。」



一通り弾き終え、音楽室を出て窓から外を見るとすっかり日も沈み、もうほとんどの生徒が下校していた。


随分長い時間弾いていたようだ。



いつも歩いている学校の廊下も夕日が射し込むだけで、普段とは全く別世界のように見える。

今日は隣に美女がいるのもあるのだろうか。


そんな趣のある景色の中で一人の刃物を持った男が笑いながらこちらを見ていた。

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