26.レベル上げ

***


ルタをパーティへと引き入れた二人は三人一組となり早速実践を開始していた。

装備を立派な物にしたからといってルタの戦闘力が急に引き上げられるわけではない。

もっと言えば下手な手伝い屋は本来戦うための力を持ったキャラクターではないため、初心者よりも経験が浅くとてもではないが頼れる存在とは言い難い。


それでも今回、二人は彼を入れてパーティを結成したのだ。

したからには彼を守りながら鍛える必要もあった。

例の黒鎧へリベンジするためには最低限、ルタを実戦で立ち回れるように育ててやれなくてはならない。


とんとん。と、キリシマがかかとで合図をし、


「ゆくぞ! 貴様ら!」


草陰で眠っている大熊めがけて小石を投げた。

命中。眠りの邪魔をされた大熊は目を覚ました途端に怒りの咆哮を挙げ、立ち上がってこちらを睨んだ。

石を当てた張本人・キリシマはにやりと笑い、怯えているルタを熊の前に放り出す。


「ちょ、ちょっとお! ご主人さまぁ?!」


突拍子のない主の行動に困惑し慌てふためくルタ。

熊は容赦なく彼の頭へ食らいつかんとしてとびかかってくる。


「ぎゃあああああ!」


彼の悲鳴が響く中、


「閃光! これは目くらましだ!」


真横に掲げた長杖から光の玉を撃ちだすキリシマに続き、ルタの前に降り立ったバーレッドが剣の柄部で熊の顎を下から砕き上げる。

咆哮が止み、がっちりと閉じられた咢(あぎと)から涎と血の混ざった体液を吐き出す熊の魔獣。

ルタはそれをかわしながら、


「ええい! 疾風です!」


と腕を振る。

木の棒のような短い杖から緑色に輝く風の音色が出、草を巻き上げるエフェクトが続く。

そのひ弱に見える一撃がとどめになったらしい。

大熊は腹を見せて大袈裟に倒れたあと、一拍置いて金貨と毛皮のアイテムに変身した。


「や、やったぁ~~~~」


これまた大袈裟な溜息を肩から吐き出すルタを見下ろしながら、キリシマは彼のステータス画面を分析して表示する。

ルタのレベルは最初に出会った8からすでに15に上がっていた。


「なるほどですキリシマさん」


「ふむ。見事なみねうちだ。流石はバーレッド」


横からルタのステータスの成長具合を確認しバーレッドが言う。


「新人のレベル上げと同じように手伝い屋のレベルを上げるなんて。ゲーム時代じゃあ考えつかない発想でしたよ」


「武器が装備が出来るということは奴らにも戦うことが可能だと考えたまでだ。レベル40前後の大熊(グリズリー)一体で結構な経験値が入る。この調子ならばすぐに中級者レベルにしてやれるだろう」


彼らはただ懐かしい思い出を振り返りながら、はしゃぐルタを見守っていた。

LSOがゲームであった頃にはこうしてよく新規プレイヤーの手助けをしていたものだ。と。

キリシマはギルドの長として、自身の領地へ来る者には平等に接し面倒を見ていたし、バーレッドも通りすがりに助けを求められれば応じていた。

新人たちに必要とされる玄人二人は、こうやって人と人との繋がりを感じていた頃のゲームが楽しかったな。と感じる。


「おーい! ご主人さま! 次行きましょうよーー!」


「そう急かすなルタ。すぐに行く」


そして、ルタ自身もレベルが上がるごとに自信をつけてきたようだ。

おっかなびっくりに同行していたはずが、数回も大熊を狩っているうちに自分から前を歩くようにさえなっていた。


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