11.終わったはずの
――――LSOは終わった。
本来であれば、その'はず'であった。
「バーレッド。おい、貴様! バーレッド!」
感触を確かめるように肩を揺すり、目の前で倒れている人物の意識を引き戻すキリシマ。
何が何だかわからないといった様子でおり、普段の涼しげな顔をしている余裕がない様子。
「キリシマさん……?」
呼び掛けに応えて目を覚ましたバーレッドも事態を読み込めておらず、ぼんやりとした視界の真ん中に慌てる男を入れて名前を呟いた。
彼を起こしたのはセピアブルーの長髪を乱したエルフの青年。
あまり趣味の良くないドクロのシルバーアクセサリーを胸や手首にジャラジャラとさげている。
ゲームの中で散々見た仲間、翼蛇の杖のギルドマスター・キリシマだ。
「ああ。よかった。意識はあるようだな」
「どうしてキリシマさんが? 僕らLSOからログアウトしたはずじゃ……」
「うむ。LSOは終了した。……まぁ、そのはずだったのだが」
バーレッドが目覚めるまでよほど慌てていたのだろう。
髪の乱れだけではなくキリシマの顔には汗も伝っていた。
(汗……?)
ゲームであった頃のLSOに汗をかくモーションは存在しなかったはずだ。
涙を流すのと同様、水が頬を伝う表現は導入されていなかった。
違和感を覚えたバーレッドはキリシマに手を借りて起き上がりながらステータス画面を開く。
「あれ? おかしいな。まだ使えるけど機能が制限されてる……」
直感的にコマンドを選ぶことができるウィンドウを目の前に表示して内容を見た。
自身のキャラクターアバターの3DモデルとHP(ヒットポイント)・MP(マジックポイント)の数値、現在の装備品と所持品の一覧。
ここまではいつもと同じなのだが、普段と違うのは開いたメニュー画面のコマンドに機能制限がかかっているようで操作しても反応がない。
「戦友(フレンド)の機能とオンラインチャット、ログアウト、パーティ編成ができないってことはオフラインになってるのか。でもキリシマさんがいるってことは……どうなってるんだ?」
「それについては先に目覚めた我から説明してやろう」
ザクッ。立ち上がった場所はブーツを通して草を踏んだ感触がある。
足元の草原を見、
「……というかキリシマさん。僕たちさっきまでキリシマさんが購入した家(ハウス)に居ましたよね? 何で森に投げ出されているんです?」
「家……? ああ、あれか……いや、そうだな。それも順を追って話す」
バーレッドが尋ねると、自分たちが森のど真ん中に居ることに関してキリシマは答えづらそうにする。
何か隠し事をしているときのわかりやすい口ぶりだ。
「もしかして、ログアウトする前に家を手放しちゃったんですか?」
「そ、そうだ。あるべき場所に還してやろうと思ってな」
キリシマという気障なキャラクター設定のロール通りの行動だったのだろう。
彼らしいと言えばらしいで済む話で、バーレッドもまだこの時はそこまで責めるようなことでもないと思っていた。
この時は、まだ。の話ではあるが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます