バーレッドとキリシマ～サービス終了後のゲーム世界に取り残されたお人好しな剣士と人嫌いなりきり魔術師。正反対で凸凹な二人が家を買い戻すまで～

1.始まりの森で

鬱蒼（うっそう）と生い茂る木々の隙間、二つの人影と複数の白い点が森の奥で駆け回る。

「キリシマさん！ そっちに一匹、行きました！」

二つある人型の影の一つは剣による一閃で背景を割る男、バーレッド・ハーキン。

名だたる剣士の一人として翼蛇の杖（カルドケウス）という組織（ギルド）に身を置く青年である。

外見は前髪を流した明るい茶のノーブルヘアにところどころ赤いメッシュが入っている。

人好きされそうな優しい表情。赤色が滲んだ翡翠色の目の美丈夫だ。

鎧や派手な装備は好まず動きやすさ重視の黒い軽装に身を包み、握っている剣とは別にもう一本腰から和刀（かたな）を提げている。

「わかっている。案ずるな。この程度、我の敵ではない」

冷静な返答と共に前方に魔法陣を編み出し、氷を操るもう一つの人影。

二人を追っていたはずがいつの間にか追われる立場になっていた無数の白点こと下級モンスター・角付き兎（コーン）を誘い出し、行き止まりの湖を一枚の氷板に変える青年。

「さあ……凍てつけ！」

詠唱し叫ぶ彼の名はキリシマ・ウィンドグレイス。

外はねミディアムヘアの伊達男。

遠距離での戦いを得意とする魔術師だが、身軽な戦士職にも見劣りはしない体幹を持つ。

先ほどのバーレッドとは逆に華美な装備を好む組織（ギルド）内でのお洒落番長。

金の鳥の羽をあしらった帽子やら虹色のスカーフやらとにかく傍から見れば趣味が悪い装備を本人は着こなすことができると自負しており、今日の服も背中に大きな虎が刺繍されたローブだった。

外見だけを見ればまるで生きる世界が違うような相対した出で立ちの二人だが、彼らは同じ|翼蛇の杖（カルドケウス）のメンバーだ。

そして、同名の組織（ギルド）に現存するたった二人きりの'居残り'でもある。

「角付き兎（コーン）の獣皮、約二〇枚か。この素材、売っても大したお金にはならないしなぁ……」

「依頼（クエスト）の方へ提出できればもう少し足しになるのではないか？」

「ええ。そうだといいんですけどね」

氷漬けになった角付き兎たちを剣で切り払うと、兎達は一瞬で布切れのようなアイテムに変わった。

それらを拾いながらバーレッドが言い、キリシマも彼と一緒に道具に変換された兎だったものを集めて簡易袋に詰め込む。