第5話

「…え」

なんて?

その人はイーゼルのところまで、僕を連れ戻した。

そして、いまだ光で二分された、画用紙を物憂げに眺めた。


つと、彼の手が伸びて、光と影の境界線に触れた。長い指で、ゆっくりと、まるで愛おしいものに触れているように、なでる。その影も、対になって形どられてゆく。

たったそれだけで、幻想的な美しさが現れる。

僕はいつの間にか息をつめていた。真っ白な紙に、非日常が、垣間見えた。

ふっと彼の顔が僕に向いた。まっすぐな瞳に射られ、無意識に顔が火照る。

「君の、真似」

「え?」

「さっきの、君の真似をしてみた」

少しいたずらっ子のように笑んで、また彼は身をかがめた。


「描いてみない?」

魅せられたように、うなずいていた。

「よし、決まり!」

突然彼は大きな声を出し、両手を軽く打ち鳴らした。

急に俊敏になった彼に、少し圧倒されて僕は突っ立っていた。

そんな僕を横目に笑いながら、彼は椅子を用意し、慣れた手つきでイーゼルの高さを調節している。

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