最終話 偶然が救う世界

「兄貴ー。この星です。ボスがいるのは」

「ああ、そうだな」

「しかし、ボスはすごいっすよねー。一人で地球征服しようだなんて」

「まぁ、お前は知らんだろうが、現在の俺達の星もボスが1人で征服したようなものだからな」


 オークは誇らしげに言った。


「でもここにはめっちゃでかい生命体……えーっと『ヒト』とかいう奴等がいるそうじゃないですか」

「ああ、だが奴等は飛べない。我々のような羽をもっていないからな」

「ああ、らしいっすね。でも俺らとそっくりな『トリ』とか呼ばれる生命体をペットにしたりしてるみたいじゃないですかー。なんか腹立つ」


 エルムは怒りにまかせて宇宙船の中を飛びまくった。


「そう怒るな。そのおかげでボスも簡単に入り込むことができたんだ」

「そうですけど……。まぁ『ヒト』さえなんとかできたら、後はこっちのもんですよね」

「ああ」

「それにしても、なんで兄貴は今日様子を見にくることにこだわったんですか」

「ああ。地球では今日のことを『オオミソカ』とか呼んでいてな、なんでか分からんがほとんどのヒトが深い眠りにつくそうだ。なんでも1年で唯一、街の灯りもほとんど消えるんだとか」

「確かに灯りはほとんどないっすね。でもなんか不気味っすね。確かに今日なら連絡とりやすいかもしれないですけど。ボスの声もよく聞こえるだろうし」

「あぁ。まぁ我々の聴力ならどんな雑踏からでもボスの声を聞き分けられるだろうが、流石に骨が折れるからな。ちなみに、宇宙にいる我々の声はヒトには聞き取れないらしいから、その点は心配がないそうだ。最も、我々は声もトリと似ているようだから、ヒトに聞かれても何を話しているかは分からないと思うがな。さぁ、さっそくボスに話しかけてみ……しっ……ボスの声だ」


 オークとエルムはボスの声に驚き、耳を澄ませた。


『ここは我が征服する国だ。お前らはどこかへ行け』


 オークとエルムは顔を見合せ、息を呑んだ。そしてオークはおずおずとこう言った。


「ボス、お久しぶりです。こんなにすぐに我々が来たことに気がついて頂けるなんて、光栄です。調子はいかがですか。もし良かったら、我々も征服を手伝いたく思い……」


 遮るようにもう一度ボスの声が聞こえてきた。


『ここは我が征服する国だ。お前らはどこかへ行け』


 その言葉に、エルムは少しムッとして言い返した。


「そんな言い方ないっすよ。せっかくわざわざここまで来たのに」

「ちょっ、バカ、エルム! ボスにそんな失礼な口をきくな!」


 慌ててオークが止めようとすると、また声が聞こえた。


『勘違いするな。私はお前のペットではない。お前は私の家来のようなものだ』


 ボスの声に驚き、今度はオークが慌てて言い返した。


「ペット!? そんな滅相もない。ボスはボスです。我が星の英雄です。そして我々はそう、ボスの家来です」


『勘違いするな。私はお前のペットではない。お前は私の家来のようなものだ』


 もう一度、ボスの声が聞こえた。


「そんな2回も言わなくても分かってるっすよ! てか家来って……そうですけど……でも……そんな言い方……むぐ!」


 エルムは納得がいかず、言い返そうとしたが、オークにくちばしを抑えられた。


「おい、よせ、エルム。ボスなりのお考えがあってのことだ。また、出直そう。ボス、失礼致しました。またいつか、きっと訪れます」


『ああ、そうだな。許可しよう』


 オークはその返事にホッと胸を撫で下ろした。


「ありがとうございます!」


 エルムはまだ少し納得がいかないように言った。


「次こそは、きっと俺らも地球に入れてくださいよ。約束ですからね!」


 少し間があき、またボスの返事が聞こえた。


『ああ、そうだな。許可しよう』


 その言葉にようやくエルムは落ち着いた。


「エルム、あまりボスに面倒をかけるな。もう帰ろう」

「そうっすね。ボス! また来ます! 失礼します!」

「失礼します!」


 2人は軽く頭を下げると、宇宙船をゆっくり旋回させた。そしてスピードを上げ、まるで星が流れたかのような美しい孤を描きながら星へと帰っていった。



~終~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結果オーライ 宙飛ぶ餅 @sora_mochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ