第2話 選ばれた人間

 不具合の対処にあたる役割を担う彼らは『国家公務特殊電波管理官』、略して『電管』と呼ばれる。原則として1年にたった1度しか実務はないが、社会から一目置かれる超エリートである。『原則として』とは、大晦日以外でもコンピューターに不具合が生じればすぐに出動しなければならないという意味で、だからこそ大晦日以外も脳を頭に入れているわけだが、実際には、そんな不具合は生じたことがない。


 充分な給料、立派な家が与えられ、週に一度の研修で万が一に備えたあらゆる知識を叩き込まれるが、それ以外は自由な毎日を過ごせる。最も、脳が頭に入っているので突発的な事故や事件が起これば命の危険も大きい仕事だ。そのため、外出時には防弾チョッキやヘルメットを装着することが推奨され、お抱えの運転手やSPもつけられる。それでもハイリスクとされることに加え、お天道様に優秀であると太鼓判を押された人間であるため、周囲からは、尊敬の目を向けられた。


 そして、シアンもその電管の1人であった。


「僕、電管の方を乗せるのは初めてなんです」

「そうなんですね。実は私も今年からなんですよ」

「えっ……。じゃあ、緊張されてますよね」

「そうですね、少し。研修内容はしっかり頭に入ってますがね」

「それは頼もしいです。……ところで、どうですか。その、頭に脳をいれているのって……」


 初対面の人から必ずといっていいほど尋ねられる質問だ。シアンは慣れたように答えた。


「そうですね……まぁやっぱり、慣れるまでは怖かったですね。でも慣れてしまうと、さほど違いはないです。気圧の変化に少し弱かったり……あと、頭を振るとクラクラしやすいですね」

「あぁ~……大変そう。小心者の僕には無理そうです」

「はは、でも慣れた方が危険かもしれません。今朝も庭でヘルメットを外してしまいそうになったんですけど、お隣さんが止めてくれました」

「外で! それは危険ですね。あの辺は子供も多いし、ボールでも飛んできたら大変じゃないですか……」

「そうですよね。気を付けます」

「それにしても、電管の方、しかも初仕事の方を乗せられるとは光栄です。確か……大晦日の日に電管とその専属運転手が結託して変な気を起こすことが無いように、その日のみ違う運転手が派遣されるんですよね。国から急な指名を受けて、驚きました」

「ええ、引き受けて下さってありがとうございます」

「はは、運転手って言っても、多分座っているだけですけどね。よほどのことがなければ自動運転なん……ちょ、わっ!!」


 運転手は急いでハンドルを切った。前からやってきた鳥のような何かにぶつかりそうになったのを、間一髪で避けたのだ。


「……自分、やっぱ乗ってて良かったです。おかしいな、鳥でも自動認識装置が発動するはずなんですが……後でメーカーに確認してみます。驚かせてすみません」

「いえ、とんでもない。……それにしてもすごいハンドル捌きでしたね」

「あ、実は僕、F1レーサー目指してるんです!」


 運転手は輝いた瞳でそういった。

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