領主の息子だった俺が勘当されてた件について抗議がてら見返したいと思います
田島久護
第1話 楽園から急降下
俺の名前はクニヴァース・フォン・ラファエロ。ナルメア国シンショウ領の領主の息子として生を受けた、所謂貴族である。
死ぬまで何にも困らないンだわ、次男坊なンだわ、気楽なンだわ! いよいよ十五歳になりこれから首都に赴いて社交界デビュー。貴族の令嬢たちと浮名を流し、乳母たちから愛くるしい愛くるしい言われるこの容姿を使って格上の貴族の娘をゲット。
後は適当に口利きやって、適当な役職について座ってるだけで金が入る様な永久機関を作るンだわ! 無職で金持ちなンだわ! 金も権力もあるンだわ!
今日は朝食の後で話があるから部屋に来るよう父親に言われている。きっと首都での行動などの諸注意だろう。スキップしたい気持ちを抑えながら父親の部屋へ向かう。首都へ行くよう言われるだろうから前金を貰って、更に仕送りもガッツリ貰えるよう交渉しゲットするべし!
部屋をノックすると入るよう言われたので身だしなみをもう一度整え、咳払いを小さくし喉を整えてからドアノブを回して中へと入る。ここから俺の勝者への道が、不労所得への道が始まる!
「お前今日で勘当ね」
タダの無職になりました……。
・
「お坊ちゃまお元気で―!」
何これ現実? 可笑しくない? 数行前の俺と今の俺、同じ人物とは思えないんだけれども。茫然自失と言うのを生まれて初めて体験する。景色が見えてるようで見えてない。
てかどこ行きゃ良いのよここどこよ。歩く、と言うか追い出されたので歩くしか無くて歩いてるだけの状態なんだが。
荷物と言えば無理やり背負わされたリュックのみ。この魔物も住んでる世の中でこんな仕打ち聞いた覚えが無いぞ。せめてこういう場合お付きを一人付けるとかしてさ、せめて自立出来るまでってのがあっても良いんじゃない?
何これどうしよこれ死ぬしかないよねこれ。
「あ」
何かに躓き地面に突っ伏す。意味不明。何一つとして理解出来ない。俺が今朝まで考えていた世界とは真逆の中に居る。もうこのまま死んでしまった方がマシだろう。生きていける気がしない。
顔を横に向けると何処かの森っぽい。視線の先に虫が集まり始めた。俺はこうして土に還るのか。
「いや駄目だ……」
そう、許される訳が無い。理由も言わずに勘当だけ言って執事たちを呼び、俺を引き摺りながら屋敷から放り出した親父。こんな仕打ちをされて黙ってられる訳ないだろうバチコリ復讐するしかねぇ……!
俺は怒りを込めて立ち上がる。この激しい怒りを原動力に生き抜いて成り上がり親父を同じ目に遭わせてやる!
「おいこらああああ!」
「ひ、ひぃいいい!?」
頭を振って振り返ると、屋敷近くの町を少し出たくらいの位置だったので急いで戻り、町に入ったところに居た人の両肩を掴んで揺らす。
「お金を稼ぐにはどうしたら良い!?」
「は!?」
「俺は無職だ! 住所不定だ! だが金が要る! どうしたらいい!?」
「そ、それなら冒険者ギルドに行って金稼げば良いんじゃないでしょうか……ってアンタあの御屋敷の馬鹿……じゃない御子息では!?」
「その冒険者ギルドってのは何処だ!?」
「あ、あの角を曲がったところですっ!」
もう用が済んだので掴んでいた手を放し一礼してその場を離れて一路ギルドを目指す。先ずは資金繰りだ。あのチョビ髭親父を懲らしめるにも金が要る。
「頼もーー!!」
ウエスタンドアをバーンと勢い良く開け腹から声を出して言った。舐められてはならないからこれくらいの牽制は必要だろう。
小汚い鎧や武器を着用している男たちがデカい声で喋りながら酒を飲んで飯を食っていたが、俺の声に驚いたのかこちらを凝視して止まった。
フフン。俺の気品あふれる風格に恐れをなしたか……宜しい! お前たちは分かる連中だ、認めてやるぞ!
「あらいらっしゃい。初めて見る人ね」
凝視する者たちを尻目にカウンターへ向かうと、そこには他の女性とは明らかに別格の見た目とオーラを持つ女性が居た。な、なんでこんなド田舎にこんな人が居るんだ? 冒険者ギルドってそんな儲かるところなのか? 騎士団より良いのかな。
だとしたら成り上がるのは簡単だ。ここでガッシガシ儲けて行けば親父の家すら買い取れるぞ……!
「ど、どうも。俺の名はクニヴァース・フォン・ラファエロだ。住所不定無職だが金が欲しい」
「臓器でも売る?」
あれ可笑しい。にこやかにサラっとホラーが始まる気配。俺がたじろいでいるとクスクスと笑い始める女性。それを見て揶揄われたと理解しホッとしたが落ち着くとイラッとしてきた。
ド田舎の冒険者ギルドの受付にすらからかわれるとは……俺のふくしゅう帳に書いておかねばならん。親父に利子付けて返してやる。
「出来ればそれ以外で手に入れる方法をご教授願いたい」
「あらそうなの? そのリュックの中身からその要件かと思ったんだけど」
女性が俺の肩辺りを指さす。その指先を追うと俺が背負っていたリュックだった。無理やり背負わされて茫然自失で背負って歩いて来たが、やけに大きいなこれ。
なんか人でも入ってそうな大きさだ。嫌な予感がする。ゆっくりと床に降ろし、リュックの一番上のボタンをはずし縛っていた縄を解いて口を開けると、そこに人が居た。
……いや、人が居た。じゃねーよ! なんでこんなもんが入ってるんだ!? せめてこれからこの世の中を渡って行く上で必要なものが入っているのかと思いきや人間入ってますけど!?
「どうしましょうね。憲兵さん呼ぼうかしら」
「え、ちょ、待てゃ!」
「う、うぅ……助けて」
中に居る幼い顔立ちの少女が苦し気な表情でこちらを見つめながら言う。俺が助けて欲しいわ! そしておいおいアイツ死んだわ状態で見ている他の連中に対して言いたい。
多分死んだは俺。
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