世界が終わっていればよかったのに

月城 鷹

スターダストプロブレム

 人類は破滅の運命に抗い、そして勝利を手にした。


 日本時刻PM8時に、僕は自分の住むマンションのベランダで両親と一緒に空を見上げて、神秘的な青紫の流星が空いっぱいを埋め尽くすのを眺めて理解した。


 空に降り注ぐ流星は、元は一つの巨大な隕石で2024年5月に地球にぶつかることがわかったのは、今から半年前のことだ。


 それが世界中で発表された時は何の冗談だと笑ったものだが、日に日にニュースで報道される最新情報を前に、徐々に事実だと悟っていった。


 俺みたいな高校生にできることは何もなかった。抗うすべもなく、ただただもう意味があるのかわからないのに学校に行って、勉強をし、ご飯を食べ、眠るといういつも通りの生活を送らざるおえなかった。

 世界の終わりに向け、散財する人、忘却武人に暴れる人。家族と一緒に最後まで健やかな日々を送る人。人々は様々な選択をした。


 そして抗う選択をした人達がいた。その人たちは世界の政府・企業を巻き込んで、核兵器を持って巨大隕石の進路を変更した。さらに想定外に割れてしまった一部の隕石が地球に向かって来た時は、世界中が落胆したが、それでも諦めず、ミサイルで打ち砕いて最後には人類最大の危機を乗り越えたのだ。


 「綺麗だ」


 両親が抱き合って喜んでいる横で、俺はベランダの手すりを掴んでめいいっぱい身を乗り出して、世界に降り注ぐ光の粒子に感動した。



 次の日、俺が学校に登校に登校すると、生徒たちの目には光が溢れ、各自がスマホで撮った昨日の流星の写真を見せ合い大盛り上がりしていた。

 俺ももちろん自分の家のベランダで写真を撮っている。スマホの現在の待ち受けにしているくらいだ。


 チャイムが鳴って、やたらとご機嫌な教師が前にやって来た。担任の中岡先生だ。中岡先生は詳しい歳は知らないが30代前半くらいのおじさんで、世界が終わる前にと彼女にプロポーズして先月結婚式を挙げている。つまり、新婚ホヤホヤだ。夏休みには新婚旅行を計画中とのことだ。

 そんな中岡先生は世界が救われた次の日ということもあって、なかなか興奮が冷めやらない生徒たちに対して言う。


「お前ら、浮かれすぎんなよ」


 どの口が言うんだとクラス中で大爆笑が起こった。俺も笑った。


 そんな時だ。

 一番前の廊下側の席に座る一人の生徒が苦しそう呻きだした。確かあの席はサッカー部の伊東くんだったはずだ。どうしたんだと近づいた中岡先生が彼の背中をさすると、いきなり彼は先生に噛み付いた。


 「何の悪ふざけだ! やめろ!」


 そう言って先生が伊東くんを突き飛ばし、彼は教室の壁に強かに打ち付けられた。先生は荒い息で「一体どうしたんだ?」とつぶやいて自分の噛まれた首元に手を当てると血が流れていたが、そこまでの大怪我ではなかったらしい。


 突き飛ばされた伊東くんが幽鬼のようにゆらりと立ち上がった。両手はダランと下げて、目はどこを見ているのかわからない。俺は一番前の窓側の席にいたので彼の異常性がよく見えた。これはおかしいぞっと不意にせり上がって来た恐怖心に鳥肌を立てていた時、中岡先生の様子も変わった。

 俺のいる場所から先生は背を向けた状態になっていたが突然首を抑えて呻きだしたかと思うと、両手をダランと下げたのだ。そして伊東くんと一緒に中岡先生は生徒を襲い始めたのだ。


 ここにいちゃだめだ。早く逃げないと。心臓がバクバクと音を立て、痛いくらいに鼓動する。俺は右手で心臓付近を抑えると、気づけば景色が変わっていた。


 「きゃっ、あんたどうしたの?」


 俺は気づけば自宅のリビングにいたのだ。

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