"new life"
人間、たいていのことにはすぐ慣れてしまうものらしい。いや、生物としての適応能力が強制的にそうさせているだけだろうか。
無理だと、ぜったいに耐えられないと思っていたことであっても、いざ始まってしまえばなんとかなっている。
・・・・・・違うか。他の道を知らない、見つけられないから、仕方なくその状況を享受してしまうのであって、自分が頑張って耐えて適応したわけではない。
「はぁ。今日も学校か・・・・・・」
あの子のいない学生生活。何の楽しみもない、灰色で無味無臭の、そこらに落ちている石ころのような時間。
そんなつまらない日常がどれだけ退屈で寂しいものでも、いったん始まってしまえば受け入れざるを得ない。義務教育を受ける中学生に、他の道などたいして用意はされていないのだから。
「―――それじゃあね! また明日!」
「うん、さようなら」
あの子がいなくなっても声をかけてくれる人がいる。うまくできているか分からない作り笑いで返事をする自分はどのように映っているのだろう。
友達の友達。いま自分に話しかけてくれているのは、そういう関係の人たちだ。
これまであの子が色々と情報をくれた、もしくは渡してくれたおかげでお互いのことはなんとなく分かっている。だから、こっちが人見知りだと理解した上であちらは適度に接してくれているに違いない。
あちらが悪い人ではないと分かっている。けれどどうしていいのか分からない。
分からないまま――――――季節が夏になった。
「もう夏休みか・・・・・・。やることないけど」
あの子がいなくなった春には不登校にでもなるかと思っていたのに、なんとかなっている。
その事実が少し悲しい。
終業式を終えた帰り道。いつも通り一人で歩きながら、真っ青な空に浮かぶ太陽にあの子の面影を見た。
「・・・・・・頑張ってるなぁ」
夢を追いかける太陽を、情報の海を泳いで見つけに行く。それがつまらない毎日の中で一番の楽しみだった。
あるいはこの時間があったからこそ、灰色の日常を続けられているのかもしれない。
たとえ近くにいなくても、たぶんずっと照らしてくれているのだ。
小さな世界を照らしてくれていたお日様は、もっと大きくて広い世界に飛び立って―――。
「―――ついに・・・・・・」
涼しい部屋に引きこもり続けて情報の海の中に見つけた、とても小さくてほとんどの人の目には留まらないであろう一つの欠片。
嬉しさと同時に、もどかしい気持ちがわき上がった。
けれど大きな一歩であることは確かで、わずかでも夢に近づいたことは間違いない。
「手に入れたいけど、うーん」
手段が限られていて、地方在住の中学生には少々難易度が高い。
両親に頼む手もあるが、どことなく恥ずかしいことのような気がして言い出せない。
そうこうしているうちに、発売日がやってきてしまう。母親には黙って遠出をしようと準備していると、チャイムが鳴って宅配便が届いた。
「・・・・・・これって!」
母親が笑顔で渡してくれたお届け物の差出人は、あの子。
入っていたのは、一通の手紙と欲しかったもの。
それは一生の宝物となり、そして何もないモノクロの世界に色と夢を与えてくれるものとなった。
新しい生活。それはきっと、この瞬間に始まったのだ。
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