a spring day in future
REVERSi
"dream"
桜吹雪を纏う、少し大人びたようにも見えるあの子。変わらない無邪気な笑顔で手を振ってくる様子は見慣れた光景だ。
恥ずかしがって手を振り返すことができず、ぎこちない笑みをつくることしかできない自分もまた、いつも通り。
緊張とは無縁で誰とでも仲良くなれる明るいあの子と、人見知りで臆病な暗い自分。家が近いというだけで幼馴染みとして育ってきた正反対のあの子。
大好きで、いつも引っ張られる自分にとっては姉のようでもある大切な存在。
何をするにも中心にいて、周囲を巻き込んで笑顔にする。太陽のように輝く眩しい存在。
影に隠れてばかりの自分を探し出して、新しい世界を見せてくれるヒーロー。
ずっと一緒にいてくれる。そう、信じていたのに―――――。
桜吹雪があの子の姿を掻き消していく。
まだその資格はないと、誰かに言われた気がした。
「―――そっか、今日から一人で・・・・・・」
見慣れた自室の天井が歪んでいる。
『夢ができたの! 頑張るから応援してね!』
嬉しそうにそう告げてきたあの子の姿が鮮明に思い出されたのは、きっと不思議な感覚の夢のせいに違いない。
「行かないで、なんて言えるわけない・・・・・・」
頬を伝う暖かい感覚が徐々に冷たくなっていくなかで、自分がどれだけあの子に依存していたのかを理解する。
二人で毎日歩いた通学路も、今日からは一人きり。カーテンの隙間から色鮮やかに見えていた朝の景色はモノクロで、心も身体もどんよりと重たい。
まるで自分が自分ではなくなってしまったかのような感覚。二度と会えないわけではないと頭では分かっているのに、一度離れてしまったら自分のことなどすぐに忘れてしまうのではないかという恐怖心が胸を埋め尽くすのだ。
「頑張らないと・・・・・・」
『何を?』
「しらない」
『何のために?』
「・・・・・・うるさい」
心の底から聞こえてくる声を振り払うためにベッドから抜け出し、朝日を浴びるためにカーテンを勢いよく開く。
「雨?」
天も自分と一緒に泣いてくれているのか、と思うのと同時に、通りで暗いわけだと納得。
「これだと桜も・・・・・・」
散ってしまうかもしれない。
その冷たい雨の音に春の儚さを感じながら、光のない日常を送る準備を始めたのだった。
春。
それは「出会い」、「別れ」、「転機」、「芽吹き」、「雪解け」などを連想させる季節。
そして「新生活」の季節でもある。
夢に出会った者と、別れを告げられた者。
二人は再会する。
夢に見た、少し先の春の日に。
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