無駄からの解放

第1話

「自分を守るために格闘技を習い始めたんだけど辛くて辛くて」

　友達がそう愚痴る。

「体力的に？」

「うん。いきなりハード過ぎたかなって思って」

「だったら辞めたら？」

「年会費払っちゃったしな……」

「思い切ったことをしたな」

「手痛い出費をしたと思えば長く続けられると思って」

「失敗したと思うよ」

「失敗だと思うならスパッと辞めて、新しいことを早く始めたほうがいいと思うぞ」

「もったいないし」

「辛い辛いと思いながら時間をドブに捨てるのと、失敗を活かして成長を実感するの、どちらがいい？」

「成長を実感したいかな」

「だったら辞めよう。すぐ辞めよう。明日にでも辞めよう。悩む時間を新しいことに使おう」

　友達がグッと拳を握り、ゆっくりと開く。そして、

「そうするわ」

　と言って手で顔を覆った。

「よく決断した」

　その肩を叩くとため息をついた。

　金だけじゃなく時間もドブに捨てようとした友達を救えた。そんな少しの達成感があった。ような気がする。