第195話【ロギナスの状態を把握する】

 翌日の朝、僕たちは予定どおりにロギナスへ向けてエルガーを出発。スキル持ちの育成やアーファの待遇改善については再度ギルドマスターからきちんと対処すると言質をとりアーファに感謝された。


「早くアーファさんの仕事が落ち着けば良いですね」


 馬車を操りながら後ろに乗る僕にノエルがそう話す。


「すぐには難しいけど国の施策として考えてもらわないとうまくはいかないだろうな。とりあえず暫くは様子見だけど改善が進まなければ粗治療をしなければならないだろうね」


「粗治療ですか?」


「ああ、いざとなればアーファさんをエルガーから移動させないと駄目かもしれないね。居なくなって初めて教育の大切さが身にしみる事だろう」


「個人の要望をギルドがきちんと反映させてくれると良いのですけどね」


 僕たちはそんな話をしながらこれまでと同じように道中の障害物を処理しながら進んだ。


 ◇◇◇


「――ミナトさん。見えましたよ」


「ああ、久しぶりだな。みんな無事にやっていると良いが先ずはギルドに顔を出した方が良いかな?」


 エルガーからの道中は大きなトラブルも無く一泊の野営を終えて小高い丘を越えたあたりでロギナスの町並みが遠くに見え僕たちは懐かしさのあまり笑みがこぼれていた。


「おおっ! ミナト殿ではないか! 一体何処へ行かれていたのですか?」


 ロギナスの町へたどり着いた僕たちの馬車は知り合いの門兵にそう聞かれて隣国に勉強をするために行っていたと答えておいた。


「そうでしたか。ギルドマスターが探しておられましたのですぐにでもギルドへ顔を出してもらえますか?」


「はい。僕たちもそのつもりでいましたのですぐに向かせてもらいますね」


 僕は門兵にそう答えるとノエルに言ってギルドへ向かってもらった。


「――思ったよりも被害は出ていないようだね」


 ギルドに向かう途中で建物の状態を見るが予想していたような一面のガレキの山とはなっておらず内心ほっと息をつく。


「とりあえずギルドマスターにお会いして状況を聞くのが一番間違いがないと思います」


「そうだな。僕たちに出来る事があるかもしれないしな」


 そう言っているあいだに馬車はギルドの前まで到着し、すぐ近くの馬車小屋へと馬車を預け僕たちは急いでギルドへと入って行く。


 ――からんからん。


 いつもの音を響かせながら懐かしいギルドのドアを開けると懐かしい声が聞こえてきた。


「ミナトさん? いつ戻られたのですか!?」


 受付の窓口から慌てて飛び出すと目の前まで駆けてくるといきなり手を掴んで言った。


「すみません。すぐにギルドマスター室へお願い出来ますか?」


「サーシャさん、お久しぶりですね。ちょうど僕たちもギルドマスターにお会いしたいと思っていたところなんですよ」


 掴まれた手を僕は握り返してそう言った。


 ◇◇◇


「――ギルドマスター。ミナト様をお連れしました」


「ああ、入ってくれ」


 僕たちはサーシャに連れられてギルドマスターの執務室へと案内される。


「よく戻ってきてくれた。隣国の様子はどうだった?」


「それぞれに発見があり、とても有意義に過ごせたと思います」


「そうか。それは良かった」


 ギルドマスターのザッハは準備された紅茶を飲むと本題を切り出した。


「聞くところによると街道の整備をひとりで請け負ったそうだな。そしてノーズから王都経由の街道を馬車の通れるようにしたと聞いたが間違いないか?」


「はい。ノーズのギルドで依頼をされたのと僕たちも馬車でロギナスまでたどり着きたかったので片付けてきました」


「片付けてきましたって簡単に言うやつだな。本来ならばそれぞれの区間を複数の者が少しずつ倒木や落石を片付けていくものなんだがそれを片付けながら普通に進むペースで進むやつなんて他にはいないぞ」


 ザッハは僕の言葉を聞いて諦めの表情を見せると数枚の書類を机に広げる。


「まず、これがさっき言ったノーズでの依頼書の写しだ。そしてこっちが依頼の完了報告書になる。ミナトの事は信用しているから依頼が終わったと言うならばそう処理をしても良いが一応早馬での確認をしてもいいか? 無いとは思うがミナトが通り抜けた後でまた倒木や落石が絶対に無かったとは言えないからな」


「それはもちろんいいですよ。もし、僕のことが必要ならば喜んでお手伝いさせてもらいますから」


「そう言ってくれると助かるよ。なにせ、いま町はこんな状態だから人手はいくらあっても足りないからな」


「その事について伺いたいのですが、町の状態を教えてもらうことは出来ますか?」


「ああ、先日の地神はどうやらこのロギナスの辺りを中心として起こったらしく、ギルドの周りは比較的だが家や壁には被害が少ないが弱い建物は軒並み崩れたりしている」


「……なにか僕に手伝えることはありますか?」


「ミナトが居れば解決できる事案は多くある。もちろんタダとは言わんから是非とも手伝ってくれ」


「分かりました。どなたか指示ができる人をつけてくれればすぐにでも取り掛かりますよ」


 僕はザッハを見ながらそう答えるが彼はため息をついて言う。


「今しがたロギナスに到着したばかりだろう? 確かに人手は欲しいが無理してはいかん。こちらも補助する者の手配があるから明日にでもまた来てはくれんか? それに彼女の店も気になるのではないか?」


 そう言ってザッハはノエルの方を見る。


「あ、すまない。駄目だな僕は目の前の事ばかり見てしまっていた」


「いえ、良いのですよ。それも自分のことじゃなく他人のためなんですから」


 ノエルはそう言って優しく微笑んでくれた。

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