第194話【荷物整理のお手伝い】

「さて、さっさと片付けてしまうか。アーファさん、目の前にある荷物の区分けはどうなっているのかな?」


「あ、それはこちらの端からここまででひとつにして欲しいです。あと、こっちの荷物は傷みやすいので劣化防止のスキルを……ってミナトさんのスキルは基本的に全部そうでしたね。なら、大丈夫です。そしたらこれは……」


 僕はアーファの指示のもとでひとつずつ丁寧にカード化を進めていく。彼女は先ほど管理が回っていないと言っていたが指示の的確さを考えると十分に管理する能力があると思えた。これならば補佐する人材さえあれば問題なくやっていけるだろうと一安心をした。


 ◇◇◇


「――これで最後になります」


 2時間ほどかかっただろうか目の前に積み上げられていた荷物とカード化したものはきちんと整理され、すぐにでも現場に持ち運べる状態となっていた。


「うそ……。あれだけあった荷物整理が終わっちゃった」


 目の前の現実が信じられないかのように彼女がつぶやく。


「お疲れさん。いい指示だったよ。これから暫くはそう大量の荷物は届かないだろうから溜めないようにすればパンクすることも無いだろう。今のうちに補佐の人材を育成するようにしておけば君に何かあった時にも対応出来るようになるさ」


 僕はそう言ってアーファに微笑みかけた。


「本当にありがとうございました。このままだと私、過労死するかプレッシャーに負けて夜逃げしていたかもしれません」


 心底ホッとした表情で笑うアーファを見て僕は改めてギルドマスターに後任育成の強化を強く求めてからギルドを後にした。


 ◇◇◇


「――お疲れ様でした。アーファさんとても大変そうでしたね。ギルドも職員の育成をしていないなんて酷いと思います」


 結局、その日はエルガーに宿泊して次の日の朝からロギナスへ向かうことになりノエルと共に宿で食事をとりながら今日のことについて話をした。


「そうだね。ただ、元はと言えば僕にも責任があるからギルドの態勢を一概には責めることは出来ないんだよ」


「どういう事ですか?」


「もともとこのギルド便は手紙を送るだけのものだったけど、カード化スキルと組み合わせて荷物を早く届けられるようにしたものだ。それ自体は画期的なものとして称賛されたけどネックとしてカード収納スキル持ち、しかも最低レベル3以上で出来ればレベル5が各ギルドに配置されていないと機能しない方法なのは知っているよね?」


「はい。ですからミナトさんは各ギルドから適応者を集めて研修を行い、そのスタートアップを指揮しましたね」


「うん。確かに最低限のことはやったと思っているけどその後の事は各ギルド任せだったのが今回のような事になった原因のひとつなんだ」


「でも、それはギルドの方で対応するべき事で……」


「確かにそれが正論なのだろう。だが、今回の件はあくまでイレギュラーな事だから日頃は実質ひとり担当が居れば対応出来る量だったからなかなか次の職員の育成に力を入れていなかったのだと思う」


「だけどそれじゃあ……」


「ああ、それでは今の職員が辞めたり怪我や病気の時に交代出来る者が居ないことになる。それじゃあ本末転倒だから今回、ギルドマスターにはお願いをしておいたってわけだ。もちろんエルガーだけの問題じゃないからロギナスに戻ったら王都ギルド本部にももう一度きちんと要請をしようと思っている」


 僕はそこまで話すと今度は明日からの事に話を変えた。


「とりあえずエルガーでの予定は終わったから明日の朝からロギナスへ向かうつもりだ。途中の道はおそらくこれまでと同じかもしかしたらもう少し酷いかもしれない。どうも地神の元がロギナスの辺りだと言われているようだしね」


「そうですね。大きなトラブルが無ければ良いのですが……。ロギナスの町に関してはギルドの話ですと建物の破損なんかが多くて片付けの人手が足りていないと聞いています。しかし実際の話、他の街から人を派遣することは難しいそうで結果的に道具の斡旋に留まっているとも言われていました」


 ギルドでの依頼をこなした後に僕とノエルはロギナスの現状について情報集めをしていたのだが決定的な支援の方法が思いつかずにいた。


 そもそも、今回のような災害時に一般人である個人が出来ることなどたかが知れているし、そこまでする義務も無かったのだが右も左も分からない世界に来た僕からすれば快く受け入れてくれたロギナスの町には並ならぬ恩を感じていたのは間違いないだろう。


「まあ、やれることをやるだけだな。それよりもかなりの期間町を離れていたからそっちの説明を求められる方が面倒かもしれない。こんな時だから拘束されて尋問とかはないだろうがザガンの件もあることだしな」


「そういえば、すっかり忘れていましたがそんな事もありましたね。私も父からの手紙が山積みになっているような気がします」


 ふと思い出した現実にげんなりとした表情を見せたノエルに僕は苦笑いをしながら言った。


「ノエル。君は絶対に僕が守るからね」


 僕の言葉にノエルは頬を赤らめて頷いてそれに応える。


「嬉しいです。でも、あまり無茶はしないでくださいね」


 そう言った彼女は優しく微笑んでくれた。

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