第188話【王都ギルドへの報告】

「キリュウさんじゃないですか」


 声に振り返った僕の前には以前スキルの修練を指導したキリュウが笑顔で立っていた。


「ミナト殿、いつ王都へ?

 来ているならば連絡をくだされば良かったのに」


「いや、つい先ほど到着したばかりなんですよ。

 数日前にアランガスタからノーズへ戻ったところでギルドから依頼を受けてこちらに来たのです」


「そうでしたか。昨日ノーズから多くのカード化された荷物が届いていましたのでミナト殿がノーズで対応をされているのは聞いておりましたが、まさかその後で王都に向けて来られているとは思いませんでした。

 しかし、この大変な時期にギルドからどういった依頼を受けられたのですか?」


「国内の大きな街道を塞いでいる倒木や落石・落岩の除去、地割れによる破損の簡易的な修復を依頼されているのですよ」


「それをミナト殿一人に?

 いくらなんでも無茶な依頼だと思うのですが」


「まあ、前の僕だったら断るか内容の変更を申し出ていただろうね。

 でも、僕のほうもあれからスキルの修練を重ねて出来る事が増えているから、問題なく王都まで来ることが出来たんだよ」


「……ノーズを出発されてから約二日でたどり着かれたところをみると相当な無理をしていると思うがミナト殿からすると大した事ではないのかもしれないのですね」


 そう言ったキリュウは今更ながら僕たちが食事中であったことに気がつき慌てて「これは食事の邪魔を致しましたな。また、明日にでもギルドでお話を聞かせて貰えればと思います」と言ってお辞儀をすると別のテーブルに同僚と見られる者たちと一緒に座り食事を注文していた。


 ◇◇◇


 次の日の朝。泊まった宿の清算をしてから昨夜と同じ店で朝食を食べ、その足でギルドへと向かう。


 ――からんからん。


 ギルドの扉を開けると直ぐに受付嬢のひとりが駆け寄って来て本人確認をする。


「冒険者ギルド王都本部第一窓口担当のアリスといいます。

 ミナト様とノエル様で間違い無いでしょうか?」


「はい」


 僕がそう返事をする横でノエルも肯定のうなずきをする。


「ギルドマスターがお待ちですので二階の執務室までお願いします」


 アリスはそう言うと僕たちをギルドマスターの部屋へと案内をしてくれる。


 ――コンコン。


「ミナト様、ノエル様がお見えになりました」


「入ってもらってくれ」


 アリスの問いかけに中からそう返事が返ってきたので彼女はゆっくりとドアを開けて僕たちを先に部屋へと招き入れた。


「失礼します」


 ノーズギルドでの依頼報告だけと思っていたところをいきなりギルドマスターの部屋へと案内された僕たちは恐縮をしながらも部屋の中へと進んで行く。


「まあ、そんなに緊張してないで座りたまえ。

 門兵から先触れである程度の報告は聞いているのでそのすり合わせをしたいだけだ」


 ギルドマスターのランスロットはそう言うとアリスに紅茶を出すように頼んで自らも向かいの椅子に座った。


「こうして会うのは2度目だったと思うが、以前は確か金色マースの件だったか。

 あの時は世話になった」


 ランスロットはそう言うとアリスの淹れた紅茶に口をつける。


「まあ、前置きはそのくらいにして本件についての詳細を聞こうじゃないか」


 ランスロットの言葉に僕が代表して話を受けた。


「詳細と言っても難しい話ではありませんよ。

 僕たちはロギナスに帰る予定でノーズを訪れた時、ギルドマスターからの依頼で帰路道中の街道を塞いでいる倒木や落石などを排除し、地割れなど馬車が通るために邪魔になるものを片付けるように言われて実行してきただけです。

 幸いにも道中では野盗も出ずに王都までは依頼された案件を完遂することが出来ました。もっとも僕たちの目的地はロギナスなのでまだまだ半分も来ていませんけどね」


 僕がそう答えるとランスロットは驚いた表情で手にしたメモ紙に何か書き留める。


「それは予想以上の結果だな。

 この功績によってまずは王都からノーズ方面の物流が回復出来ることになるだろう」


「聞きたい事はそれだけでしょうか?」


 ギルドへの報告が終われば明日にでもエルガーに向けて出発したいと考えているのでその準備を進めたいと思いそう問いかける。


「話を聞く限りはとんでもなく早い街道の復旧に対する報酬を出さねばならないのだが話の真偽を確認しなければ完了とするわけにはいかないのだ。

 だが、君たちは明日にでも王都を出てエルガーに向かうつもりだろうから報酬に関しては全てが完了した際に支払うで了承をしていただきたい」


「そんな事は当然のことなので問題はありませんよ」


 ランスロットの言葉に僕はなんでもないかのように答え「では、これで……」と言って席を立とうとする。


「まあ、待て。

 もうひとつ話があるのだが、その前に君に会わせたい者がいるのでもう少しだけ付き合ってくれないか?」


「会わせたい者?」


「ああ、おそらく君とは面識のある者のはずだ。

 アリス、彼を呼んで来てはくれないか?」


 ランスロットはそう言ってアリスにその人物を呼びに行かせた。

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