第184話【豪華な宿と特別風呂】
「――コイツで最後だな」
倉庫に山積みとなっていた救援物資を全てカード化した僕は「ふう」と息を吐いた。
「お疲れ様でした。
今日は一日ゆっくりと休まれてください」
カード化された荷物を受け取ったロセリがそう声をかけてくれる。
「そうだな、そうさせてもらうよ。
ノエルもそれでいいかい?」
「私はミナトについて行くからそれでいいです」
「ならば今日の宿屋はギルドが持とう。
これだけの仕事をさせちまったせめてもの礼だ」
「それはありがとうございます。
お言葉に甘えてお世話になります」
僕はそう言ってノエルと一緒にディアルの手配でとった宿に泊まる事になった。
* * *
「――こちらの部屋になります。
お食事は一階の食堂でお願いします。
お風呂は特別風呂の予約をされていますのでお食事の後にでも行かれてくださいね」
案内された宿はこんな時にも関わらずしっかりとした対応をしてくれる一流の宿で対応してくれた女主人は終始笑顔で説明をしてくれた。
「ありがとうございます」
女主人の説明にノエルがお礼を言ってから部屋へと入ると思わず感嘆の声がもれる。
「素敵なお部屋」
ノエルの言葉に僕も部屋に入って中を見渡すと直ぐに同じ感想を持った。
「これはディアルさんに感謝しないといけないな」
僕はそうつぶやくと二人だけになった部屋の中に紅茶のポットを見つけてノエルにうながした。
「あ、私が淹れますのでミナトさんは座っていてください」
ノエルがそう言って一緒に置かれていたカップに紅茶を注いでくれた。
「うん。
いい香りだね」
「そうですね」
部屋の中に広がる紅茶の香りに頬をゆるませながら明日からの事に考えを切り替える。
「明日は朝食後すぐに王都へ向って馬車を進めることになる。
ギルドの情報では道中のあちらこちらで倒木や落石、一部で地割れなどが確認されているようだからそれらの障害物を取り除きながら進まないといけないらしい」
「そういった処理をしながらでしたらかなり時間がかかりそうですね」
「状況にもよるだろうけど僕はそれほど心配はしていないよ。
スキルレベルが上がった事で格段に出来ることが増えたからね」
「ですが、あまり無理をされないでくださいね」
「ああ、分かってる。
それじゃあ早く休むためにも食堂へ行って夕食を食べたらお風呂を頂こう。
おそらくこれから暫くはお風呂なんかは入る余裕はなくなるだろうしね」
僕はそう言うとノエルと共に食堂へと向かった。
「美味しいです」
席に着くと注文もしないうちに料理が運ばれてきて驚いたが事前にディアルが頼んでいたようでその味にノエルが思わずそう言って頬をほころばせた。
「部屋の次は料理か。
いったいどれどけの金がかかっているのやら」
「あれだけ山積みで運ぶ手立てが無かった荷物の輸送に目処が立ったことが嬉しかったのではないですか?
ギルドマスターからすれば凄い実績になるでしょうし」
「そういうものか?
それよりもこの後に入る予定の風呂も特別風呂とか言ってなかったか?
これも相当豪華な造りの風呂なんだろうな」
「凄く楽しみです」
僕はそれほど風呂に執着は無いがノエルのように若い女性となれば気になるようで食事をしながらもいろいろと想像をしてはにやにやしており僕はそれを見ていて可愛いと思う。
そうこうしているうちに食事も最後のデザートとなり紅茶と一緒に楽しんでいると先ほどの女主人がやってきて説明をはじめる。
「お料理はご満足いただけましたか?
この後、お風呂の準備が出来ていますのでどうぞお入りください。
特別風呂はカウンターから右手奥となりますのでお間違えのないようにお願いします」
女主人は丁寧にお辞儀をすると奥に戻って行く。
「せっかくだから行ってみようか。
着替も全部カード化してあるからこのままでも大丈夫だろうし」
「そうですね。
なら、このまま行ってみましょうか」
ノエルが同意したので僕たちはカウンターに向かい教えられたとおりに右手奥の通路へと進んだ。
通路の先は数十メートルほどで行き止まりとなりドアがひとつだけついており上には『特別風呂』との表示があった。
「ここだな、入口はひとつしか無いのか。中で分かれてるのか?」
僕は目の前のドアを開けると一歩中に入りそこに書かれていた文字を読んで固まってしまう。
【混浴の湯】
「ミナトさん、急に止まってどうしたのですか?」
後ろからついてきたノエルは僕の身体で隠れてその文字が見えなかったらしく不思議そうな顔でそう聞いてきた。
「これは流石にマズイだろう」
「何がですか?」
僕のつぶやきを聞いて不思議に思ったノエルがそう言いながら僕の前にある文字を見た次の瞬間には顔を真っ赤に染めていた。
「ぼ、僕は後でいいからノエルさんはゆっくり入ってきていいよ。
先に部屋に戻っておくから上がったら交代して入ることにしよう」
僕のその提案にノエルはふるふると首を振って小さな声で言った。
「一緒に入りたいです」
「いやいやいや、それはまだまずいでしょう。
確かに婚約はしたけどまだ正式に結婚したわけじゃないんだから……」
慌ててそう言う僕の目にはノエルの残念そうな表情が映る。
「……バスタオルをキッチリ巻いてくれる事が条件だよ」
どちらが主導権を握っているかわからない状況で僕が出した答えがそれだった。
「じゃあ、お互いに背を向けて服を脱いだらきちんとタオルを巻くこと」
僕は彼女がうなずくのを確認すると着替えをカードから開放して手渡すとくるりと背を向けた。
――シュルシュル。
僕の後ろで服の布が擦れる音が妙に響いて頭の中がぐちゃぐちゃになるのを必死に抑えながら僕も服を脱いで腰にタオルをきっちりと巻く。
「僕は準備が出来たから先に入っておくよ」
僕は彼女の方を見る勇気もなくそう告げると湯船のある方のドアを開けて中に入った。
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