第167話【ロロシエル商会長③】
「さあ、ここからは本当にお礼の宴とさせてください。
まだまだお話を聞かせて頂きたいのでお酒は軽いものだけ準備させて頂きました」
ハーベスはそう言うと僕たちの前にエールの入ったグラスが置かれツマミとなる料理がいくつも運ばれてきた。
「これは爽やかな香りのするエールですね。
酒精も少なめでお酒に強くない人でも美味しく飲めるのが良いですね。
この味は……モモライチの果汁ですか?」
ノエルは出されたエールに口をつけて味の感想をのべる。
「おお、このエールに使われている果物が分かるとはたいした味覚をお持ちだ。
そうです、モモライチの果汁をベースに使っているのです」
「モモライチの実ですか……。
その実はこのあたりの特産物になるのですか?」
「実際の果実を持って来ましょうか?」
「それはぜひ見てみたいですね」
地域の特産物となると興味が湧いてきてハーベスにそうお願いをする。
「かしこまりました」
そばに控えていた従業員の女性はそう答えるとスッと部屋から出ていった。
「果実を取りに行かせている間に少しお話を聞かせてもらっても良いですかな?」
ノエルとのやりとりに区切りがついたところでハーベスは僕の方に顔を向けて話を振ってくる。
「僕に分かることでしたら何でもお聞きください。
答えられる範囲でお答えしましょう」
「それはありがとうございます。
では早速ですが、あなたのカード収納スキルのレベルはいくつでしょうか?
いや、答えにくければ無理にとは言いませんが、私も商売がてらそれなりの地位におりますが正直あなたほどの使い手を見たことがありません。
もちろんダルべシア国においてだけでアランガスタ国やグラリアン国ではそれほど珍しい事ではないのかもしれませんが……」
「そうですね。
その質問にお答えする前にお聞きしたいのですがハーベスさんはスキルにはメインスキルとサブスキルがあることは当然ご存知だと思いますがそれぞれのレベルには上限があることもご存知ですよね?」
「ええ、もちろん。
メインスキルは最高10レベルでサブスキルは最高5レベルですね。
それがどうかされたのですか?」
「スキルはレベルによって強化されるのはどの国でも常識だと思われますがどうしてカード収納スキルは思ったほどレベルを上げられていないのでしょうか?
実際スキルを持つ人は一定数いるはずなんですが」
僕の質問にハーベスは苦い表情をしながらも正直に答えてくれた。
「残念ながら使えないスキルとの認識が強いからですね」
僕はその答えに特段不快感は出さずに静かにうなずく。
「そのとおりですね。
このカード収納ってスキルをある程度使いこなそうとした場合、レベルで言えば5レベル以上が必要になります」
「ご、5レベルですか!?」
「はい。
5レベルといえばサブスキルだと最高レベルに値しますがなかなかそこまでスキルレベルを上げる人がいないのが現実だと思います。
なぜかと言うと最初に戻りますが『どうせ使えないスキル』との常識的認識があるからに違いありません」
「た、確かに私の部下にも収納スキルを持つであろう者も居ますがそれを使って仕事を優位にしようとする者はひとりもいないのが現状ですね」
ハーベスは僕の言葉に自らの商会内の事を思い浮かべてそう答える。
「おっと、話が少しばかりそれてしまいましたね。
実は僕のカード収納スキルはメインスキルなんです。
この意味はおわかりですよね?」
「メインスキルと言うことはレベル5以上になる事が出来る……でしょうか?」
「そのとおりです。
いろいろと問題があるので正確なレベルはお答え出来ませんがレベル5は越えているとだけお答えしておきます」
「なるほど。
それで今回トトルに持ちかけた荷運びが可能になったということですね、納得しました。
いや、しかしよくぞそこまでスキルレベルを上げられましたね。
先ほどもご自身で言われていたとおり世間の評価では使いものにならないと思われているものに多大な努力をされたのでしょう。
本来ならば是非とも私の商会にて共に働いて貰えるように勧誘するところですがトトルよりそれは難しいとの報告も受けておりますので非常に残念ではありますがこの場での勧誘は控えるとしますね」
「その件に関してはすみませんとしか言えないですが何かあればお話は聞かせてもらいたいとは思っています」
トトルが前もって報告していたようで商会長からの強引な勧誘はされないとの事で僕は内心ホッとしていた。
「お待たせしました。
モモライチの果実をお持ちしましたのでご賞味ください」
話の切れ目にあわせて絶妙なタイミングで先ほど頼んだ果物が僕たちの前に置かれる。
「こちらがモモライチの果実です。
皮をむいて食べるのですが手でむくのは少々難しいのでナイフを使ってこう切れ目を入れてから押し出すようにすると簡単に皮がむけますので試してみてください」
ハーベスは先に皮のむき方の説明をしてそばに居る女性に頼んで実際に皮をむくのを見せてくれた。
「なるほど、そうやるのですね」
先に反応したのはやはりノエルで用意されたナイフで教えられたように果実に切れ目を入れてから押し出すようにしながら実に口をつける。
「あ、美味しい」
ちゅるんとモモライチの実がノエルの口に吸い込まれその瑞々しさとほんのりとした甘さにノエルは思わずそうつぶやいた。
「ミナトも食べてみてよ」
ノエルはそう言ってナイフで皮に切れ目を入れてから渡してくれた。
「美味い」
ノエルにうながされて食べたモモライチの実は予想よりも美味しく僕を驚かせてくれた。
「いかがだったかな?」
「凄く美味しかったです。
この果実は一般でも買えるものなんですか?」
「ああ、もちろん。
この街の特産物のひとつだからそれなりに栽培されているのでこの街の商店ならば買うことが出来るだろうし、もちろんロロシエル商会でも販売していますよ。
ただ、他の街へは輸送の問題で数多くは出回っていないため、まだ一般では買えないだろう」
ハーベスがそう言うと少しばかり残念そうな表情をするのを見て僕は彼にある提案をした。
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