第152話【買い物デート②】
「まだはっきりとした事は言えませんがこの街より装飾品関係が売れる場所はあると思いますのでいくつか仕入れていきたいと思っています。
あなたが『この街では売れなかったけれど必ず売れるはずだ』と思う商品があれば教えてください。
無制限には無理ですがそれなりには仕入れていくことが出来ますので紹介してください」
「本当ですか!?
それならば是非見てもらいたいものがあるんです」
シェリルはそう言うと奥の部屋からいくつかの装飾品を持ち出してきた。
「これなんですけど……」
テーブルの上に並べられたのは透き通った面に綺麗な細工が施されているグラスだった。
「これは私が試行錯誤をしながらも初めてうまく作ることが出来たグラスなんです。
このいくつものカットが美しいと評価を頂いたのですが、この辺りの方には値段が高すぎて日頃つかいが出来ないと誰も買ってくれなかったんです。
それで今度は行商人の方に薦めたのですけど、やはりこんな割れやすいものを運ぶのはリスクが高すぎると言われて誰も買ってくれなかったんです」
(まあ、そうだろうな。
これだけの品ならば値段も張るだろうし庶民向けでは無さそうなデザインだから豪商か貴族向けに売るしかないだろう)
「それは残念でしたね。
凄く良く作られていて見る人がみればかなりの価値があると思いますよ。
それでこのグラスの値段はおいくらですか?」
「あはは、値段ですか?
聞いても引かないでくださいね」
「はい、大丈夫ですよ」
「金貨1枚です」
「ふむ、なるほど。
金貨1枚となると10万リアラですか……。
そうですね、少し手にとって見ても良いですか?」
「驚かないんですね?」
「ああ、それはまだ本当の価値がわかりませんから高いのか安いのかの判断をしきれないからですよ」
僕はそう言うとグラスのひとつを持ち鑑定スキルで確認する。
【飾りグラス:グラス加工されたものに精密なカットがなされている】
「うーん。
やっぱり僕じゃ相場の確認は無理か。
君も見てみるかい?」
そう言って僕は手にしたグラスをノエルに渡す。
「――どうだい?」
僕は手にしたグラスをじっと見つめているノエルに声をかける。
「そうですね。
まだ販売の実績がないようですので相場情報も確認出来ませんね。
残念ですが金額が金額ですのでリスクが高いと判断します」
「まあ、普通に考えればそうなるよね。
だけど気にはなる仕上がりだよね」
僕はノエルにそう答えてからシェリルに確認をする。
「これが金貨1枚に相当する根拠はありますか?
例えば素材が希少なものだとか、作るのにものすごく難しい技術が必要とか……」
「はい。
技術はもちろん難しいレベルだと思いますが言われるとおりこれは普通のガラスではなく水晶という宝石の原石を加工しているからです。
原石と言うとあまり価値がないと言われるかもしれませをんがこのサイズのものは数が少なくそれなりの価格になるためです」
「やはりそうでしたか。
しかし、それならば最初からそうであると説明をされたほうが良いですね。
いくらデザインが綺麗であってもガラス製のグラスでは金貨は払えませんよ。
しかし、僕の鑑定もまだまだだな。
素材に関して水晶だと認識出来ていれば話は早かったのにな」
僕はそうボヤキながら少し考えてそのグラスをペアで買う事に決めた。
「正直言ってさばけるか分かりませんが何かしらの役に立ちそうな気がしますので2個ほど買わせてもらいますね。
もし、どこかでこれを気に入ってくれる人があなたを紹介してくれと言われたら教えても良いですか?」
「あ、はい。
あぶない人でなければお願いします」
「わかりました。
僕の見立てで良ければそうさせてもらいますね」
僕はそう言ってカード化してある金貨を2枚取り出して開放する。
「代金はこちらに。
ではこちらとこちらのグラスを買わせてもらいますね」
僕はそうシェリルに伝えてから良さそうなグラスを2つカード化してポーチへと仕舞った。
「今のはカード収納ですよね?
このサイズのものがカード化出来るなんて相当にレベルが高いのでしょうね」
シェリルが羨ましそうにそう話すのを聞いてもう少し話を聞くことにした。
「やっぱりこの辺りでもカード収納スキル持ちのひとは多くないんですか?」
「多くないって言うか使いこなしている人がほとんど居ないって感じだと思います。
レベルが低いとほとんど役にたたないそうですし、レベルもなかなか上がらないとも聞いてますのでこのサイズのものがカード化出来る人には初めてお会いしました。
ちなみにこのサイズをカード化するのにはレベルはどのくらい必要なんでしょうか?」
「このグラスくらいならば多分レベル3くらいあれば出来るんじゃないかな。
この辺りではよく知らないけれど僕の知り合いにはそのくらい出来る人は何人かはいますよ」
「そうなんですね。
この辺りの行商人さんにもそんな人が居れば王都とかで売って貰える可能性があるのですけど……」
シェリルがそうため息をつきながらボヤくのを聞いて思わず助け舟をだしてしまった。
「もし、知り合いの行商人さんの中にカード収納スキルをお持ちの方が居れば効率のいいレベルアップのやり方を教えても良いですよ。
あ、でも明日にはこの街を出発しますので今日限定ですけどね」
「本当ですか!?
すぐに連絡をつけますので帰らないでくださいね!」
シェリルはそう叫ぶとお店の入口の表示をクローズにしてから飛び出して行った。
「あ、まだ行きたいお店があったから後でと言いたかったのに飛び出して行ってしまったよ。
僕たちが店のものを持ち逃げする可能性とか全く考えてないんだろうね。
まあ、そんなことはしないけど……」
「すぐに終われば良いのですけど……そうはならないんでしょうね」
僕はノエルがため息をつきながらそう言うのを聞いてシェリルが帰ってくるまでの間ずっと平謝りをするはめになった。
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