第151話【買い物デート①】
「おはようございます」
次の日の朝、目が覚めたら目の前にノエルの顔があった。
いやいや、決して添い寝をしていたわけじゃないし、ましてや大人な行為があったということもない。
ただ単に先に起きたノエルが僕を起こしてくれたにすぎない。
かなりドキッとして一瞬で目が覚めたけど……。
「ああ、おはよう。
起きるのが早いんだね」
同じ部屋に泊まっているのだから彼女が居るのは理解できているが目の前に顔があればやはりドキドキしてしまう。
「なに言ってるんですか?
もうとっくに1の鐘は鳴り終わってますよ。
早くしないと朝食を食べられないことになりますよ」
彼女の言葉に窓から差し込む朝日の明るさを見て自分が寝坊していたことを認識して慌ててベッドから飛び起きる。
「ごめん。
顔を洗ったらすぐに行くから先に行って注文をしておいてくれるかな?」
バタバタと準備をしながらそう言うとノエルは微笑みながら「いいですよ」と言って先に部屋を出た。
「朝から心臓に悪いな。
だがこれが幸せというものなのかもしれないな」
僕はそうつぶやきながら急いで準備をすませてから食堂へと向かう。
「あら、思ったよりも早かったですね。
朝食は私と同じものを頼んでおきましたけど足りなければ追加してくださいね」
食堂では2人用の小さめなテーブルに向かい合わせで椅子が配置されておりその片方に彼女が座って微笑んでいる。
「いや、大丈夫だよ。
ありがとう」
僕は彼女にお礼を言って前の椅子に腰をおろす。
「それで今日はどんな予定か決めてます?」
椅子に座った僕に彼女は微笑みながらそう聞いてくる。
「商店街をぶらぶらしながら何か良いものが無いか見てみようと思ってるけど君は何かしたいことがある?」
「いえ、私はミナトさんと一緒に商店を見て歩くのが楽しみですから。
だってこれデートですよね?」
少し頬を染めながらノエルが僕から視線を外してそう言う。
(そうか。
ただの仕入れのつもりだったがノエルとふたりっきりで買い物をするのだからデートと言っても間違いないか。
それに彼女が喜ぶならばそう振る舞うのが僕の責務だろう)
「そうだね。
せっかくだから楽しんで買い物をしよう」
僕の言葉に表情をほころばせながらノエルがうなずいた。
「朝食セットになります」
ちょうど話の切れ目に店員が朝食を運んでくる。
「よし、食べたら買い物デートにいくとしよう」
僕はそう言うと目の前の食事に手をつけた。
* * *
「――明日の朝、出発するようなので今晩はまだ泊まりますので部屋は置いておいてください」
買い物に出る準備をした僕たちは受付でもう一晩泊まる事を告げて前金を払い宿から街へとでかける。
「さて、どこから見ていこうか?」
「昨日までに見たところは外して、初めての店を中心にまわってみたいですね」
「種類は?」
「なんでもお任せ……っていきたいけど。
薬関係は見ておきたいですね」
「じゃあ真っ先に薬屋を探してみようか」
「はいっ」
ノエルが笑顔でうなずくのを見て僕たちは商店街の薬屋を探して歩く。
「あ、このお店じゃないですか?」
ノエルの声に頭の上にある看板の絵を見ると薬瓶のようなものが書かれている。
「そうかもしれないね。
入ってみるとしよう」
――カララン。
ドアを開けるとベル音が鳴り奥から女性の声が聞こえてくる。
「あ、お客様ですね。
少し待ってください」
店の中には大小様々な大きさの瓶が並べられていてどれもガラスで出来ているようだった。
「いろんな種類のガラス瓶ですね」
ノエルがそう感想を言ったと同時に奥から慌てた様子で背の低い女性がカウンターへと現れた。
「コーラルガラス工房へようこそ。
どのようなものをお探しでしょうか?」
薬屋と思って入った店が実はガラス工房だった件。
「ああ、すみません。
僕たちは旅の途中でこの街に立ち寄った者ですがこのお店の看板を見させてもらった時、薬屋の看板だと思って見てました」
ノエルがそう答えると店員の女性はガックリと首をうなだれて「やっぱりそう見えますか?」と言って涙目となる。
「あああ、ごめんなさい。
このお店はガラス工房だったのですね。
まあ目当ての薬屋ではなかったですけどこれはこれで見るものがありますので良いのではないでしょうか?」
ノエルのとっさのフォローに僕があわせるように答える。
「そうだね。
ガラス工房のお店なんて王都でも見かけなかったくらいだし、置いてあるものも瓶が中心だけど装飾品もあるから話のタネにいくつか仕入れていっても良いんじゃないかな?」
「そうですね。
私もあまり見たことありませんので値段次第では面白いかもしれませんね」
「あの……おふたりは商人の方なんですか?」
僕たちの会話を聞いていた小柄な女性はおずおずと話に入ってきてそう尋ねる。
「あ、はい。
そうですけど、今はいろんなものを見て仕入れてまわっているところですね。
各地の珍しいものを仕入れておくのもありですのでこのお店の装飾品も興味がありますね」
「本当ですか?
ぜひとも買って行ってもらえると助かります。
この街の人はあまり装飾品には興味がないのか瓶しか売れないのでいろんな方の要望を聞いてるうちになんかガラス瓶専門のお店みたいになってしまって……」
「なるほど、それでこの品揃えなんですね。
まあ、確かにガラスの装飾品なんて遠くに運ぶのは普通にリスクが高くて行商人も買って行かないでしょうからね」
「そうなんですよ。
かといっていまさら工房を王都に移す資金もないですし一体どうすればいいか分からないままこの現状なんです」
相変わらず涙目でそう語る女性にあることを確認するために聞いてみる。
「あなたが工房主でこれら商品の制作者なんですか?」
「あ、はい。
私が工房主で店主のシェリルといいます」
彼女がそう名乗ったので僕はひとつの提案を話し始めた。
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