第142話【夜襲のはじまり】

「よし、停まれ。

 今日はここで野営をする。

 明日にはベベルの町に着く予定だからといって油断をするんじゃないぞ。

 各自やるべき事をやるように、解散」


 各馬車の御者を集めて話をするトトルはリーダーらしく淡々と指示をとばしていく。


「さすがですね」


 僕が感心しながら予定していた一品料理をトトルに渡すと「すまないな」と言って受け取ってくれる。


「では他の方にも配ってきますね」


「ああ、頼む。

 それから少し話があるから皆に配り終えたら来てほしい」


 トトルが僕の背中からそう声をかけてきたので僕は右手をあげて了承の合図をした。


   *   *   *


「――それで話ってなんでしょうか?」


「もう配り終えたのか」


「はい。

 数人程度ですから話を長引かれなければそれほど時間はかかりませんので」


「そうか、では一緒に食事をしながらでも話をするとしよう」


 トトルはそう言うと簡易的な椅子に腰をおろして食事を手をつける。


「うむ。

 やはり旅の途中で普段の食事が出来るのはありがたい事だな」


 満足そうに食べるトトルに僕たちも食事を始める。


「――それでお話とはなんでしょうか?」


 食事中にと言っていたがコース料理でもない食事なので時間もかけず平らげたところで結局のところ食後の紅茶を飲みながらの話となった。


「先ほどの話だが本当にダルべシアでやるつもりなのか?」


「どの話でしょうか?」


「ギルド便を利用した高速運搬の話だ」


「まだわかりません。

 ギルド便の運用を他のことに使うことを認めてくれるかもわかりませんし、運送業を営んでいる方々の反発もあるかもしれません。

 僕としてはカード収納スキルを持つ人たちを冷遇しているのであればその地位向上の手助けが出来ればと考えていますので別にギルド便での運搬にこだわってはいないつもりです」


「そうか……。

 いや、話を聞くだけでも我々のように運送業を生業としているものからすれば死活問題のような気がしてな。

 他の方法であれば協力できるやもしれんと思ってるのだが」


「他の方法ですか?」


「ああ、君が話した内容だと確かに早く遠くに物を運ぶことは出来るがそれぞれの場所にそれなりのスキル持ちが居ないと成り立たないんだろ?

 時間はかかるかもしれないが収納スキルの容量が多くなった者を商会が雇うことによって取扱量の増加や食料品の運搬なんかで活躍すれば世間の認識も変わるのではないかな」


「ようするに、今の僕みたいな状態ですよね?

 カード収納スキル持ちが商隊に同行して荷物の運搬量を増やしたり食事の提供管理をしたりするってことですよね?」


「ま、まあそうだな」


「うーん。

 確かに何もしないよりは良いのかもしれないですけど、それって雇う商会主が正当に能力を認めて初めて成立する理論ですよね?

 今現在で冷遇されている人たちに対してそのくらいで地位の向上は望めるものでしょうか?」


「すぐには難しいだろうが、うちの商会主は儲けられる話には敏感だから結果を出せば正当に評価をするはずだ。

 もしその気があるなら話を通してやってもいいぞ」


「そうあればいいですけど、僕自身は誰かに雇われる事は考えてませんので向こうでカード収納スキルを持つ人がそういった働き方をしたいと希望すれば応援をしたいと思ってます」


「やはりそうか。

 君ほどの能力があれば自分で商売をした方が儲かるだろうし自由もきくからな」


 トトルは残念そうに言うがもともとあまり期待はしていない様子で軽く受け流していた。


「まあ、考え方はそれぞれでやり方もひとつではないからお互いが助け合って良い結果を生み出せれば最高なのだがな。

 ダルべシアまではまだまだ時間はあるからゆっくりと考えるといいだろう」


 トトルのその言葉でこの話しは一旦終わることになった。


「よし、いつもの布陣で交代しながら休むように。

 何かあれば遠慮せずに大きな音を出して皆を起こすようにな。

 このあたりは盗賊よりも獣の襲撃報告があがっていると聞いているので見張りは特に気を抜かないようにしてくれ。以上だ」


 トトルは皆にそう伝えると馬車の側に引いた敷物の上に横になり体を休める。


「僕がしばらく起きているからノエルは寝ててもいいよ。

 トトルさんがあんな事を言うから念のために準備をしておこうと思ってるんだ」


「準備ですか?」


「ああ、なんとなくあまり良くない予感がしてるんだ。

 だからちょっとばかり魔道具を仕掛けておこうと思ってね」


「魔道具?」


「ああ、ちょっと前に良いものを見つけたから交渉をして幾つか手に入れておいたんだ。

 相手がいきなり攻撃してきたりしなければ相手をカード化することは出来るけど僕自身には戦う力が足りないからね。

 せっかく護衛の人たちもいるんだから協力したほうが安全に切り抜けられるだろうしね」


 僕はそう言ってカード化してある魔道具を開放して辺りに設置をしていった。


「一応、護衛の人たちにも話を通しておかないとな」


 僕はそう言って護衛のリーダーに魔道具の設置場所と緊急時の対処の仕方を教えておくことにした。


「――と言うわけでこのセンサーが反応したら大音量が辺りに鳴り響くのですぐに戦闘が出来る体制にしてください」


「ふうん。

 動くものに反応するなんて珍しい魔道具を持っているんだな。

 こちらでも獣が来ないか注意はしておくよ」


「宜しくお願いしますね」


 僕は護衛の長にそう言うと頭をさげてお礼を言いノエルの元へと戻った。

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