第116話【ゾラとの接触】
「ふうん。 なるほどね」
子爵家からの依頼を終えたことをギルドに伝え、少し多めの報酬を受け取った僕は宿に戻り、マリアーナと情報交換をしていた。
「いまの時点ではドウマ村へ行くことは難しいか……」
「そうですね。
まあ、国が管理をしているならば一地域の子爵家の判断だけでは部外者を入れるわけにはいかないのも納得できるから別の方法なりを取るしかないでしょう」
「他……ねぇ」
「いまのところはメロリアにいるゾラという男をうまく使うしかないと思うのですけど……。
そういえばマリアーナさんはギルド経由で魔道具の注文をするって言ってましたよね?
あれ、どうなりました?」
「ああ、あれはギルドに注文したら向こうが発注して出来上がったらギルドで受け渡しをするだけだったからあまり意味がなかったのよね。
それよりも今も話があったけどメロリアにいる村の出身者の彼と話が出来たわ。
そこでちょっと面白い話を聞けたの。
それがどうも彼は村の規律に違反して追い出されたとされてるんだけど実のところは村の実力者の行っていた不正を告発しようとして逆に罪を着せられたらしいのよ。
それが原因でひねくれて今の状態になってるってわけ」
「その情報の
「一応、話の大筋は本人から聞いたものだからはっきり言って微妙だとは思うけれど、全くの嘘ではないと思うわ。
もちろん裏をとらないといけないから今は情報屋からの連絡待ちの状態ね」
「なるほど。
あの
しかし……どうするかな」
僕は先日メロリアの裏手でゾラに対して少々キツイもの言いをしていたので彼が素直に受け答えてくれるのは難しいと感じていた。
「大丈夫よ。
彼は見た目どおりの魔道具オタクで新しいものに目がないからその線でその気にさせればポロッと情報を漏らすかもしれないわよ」
マリアーナはイタズラを仕掛けたような悪い顔でそう話す。
(確かあのとき僕のカード収納を見て興奮していたよな。
その線で攻めてみるか)
「マリアーナさん。
彼を話し合いの場に引きずり出すことは出来ますか?」
「ええ、彼はあんな風貌だけどずっと閉じこもってるわけじゃないのよ。
あれで結構な女好きで自分で作った魔道具を気に入った女性にプレゼントしたりしてるのよ」
「もしかしてマリアーナさんプレゼントされました?」
マリアーナの正体を知っている僕は微妙な表情でそう聞いてみる。
「ちょっと情報収穫にメロリア喫茶店でお茶をしてたら向こうから声をかけて来てこの指輪を渡されたわよ」
マリアーナはそう言って指輪をテーブルに置いた。
「これ、大丈夫でしたか?」
「ん、一応鑑定は済ませてるから大丈夫だと思ってるわ」
「僕にも見せて貰っていいですか?」
「なに? 鑑定してみるの?」
僕はマリアーナから預かった指輪をそっと鑑定してみる。
「――鑑定」
【位置晒しの指輪:持ち主の大まかな居場所がわかる】
「うげっ。
マリアーナさん、これ面倒なやつじゃないですか。
どうして捨ててないんですか?」
「バカね、捨てたら二度と会えなくなるからに決まってるじゃない。
所詮おおまかな居場所がわかるだけでしょ?
彼からはもっと情報を引き出さないといけないからこれを持つだけで油断してくれるなら簡単なものよ」
「ま、まあマリアーナさんならば何かあっても大丈夫でしょうからそんな考えもありなんですかね?」
マリアーナの発言に若干引き気味になりながらも体を張って作ってくれたチャンスをモノにすべく僕の方も話題の準備をしておくことにした。
* * *
次の日、僕とマリアーナは喫茶店メロリアでお茶をしていた。
「本当にここでお茶を飲んでるだけで彼に接触出来るんてすか?」
「大丈夫。
これのおかげですぐにでも現れるわよ」
マリアーナはそう言って指輪を見せてくれる。
「ああ、そういえばそんなものがありましたね」
僕が納得をしているとカランと音をたてて喫茶店のドアが開きゾラが入ってくる。
(本当に来たよ……)
ゾラは以前見たときのようなボサ髪ではなくきちんとした身なりで高級そうな服を身にまとっていた。
「あら、ゾラさんじゃないですか。
よくお会いしますね」
「ははは、自分はこの裏手に住んでいますので、こうしてよくお茶を飲みにくるだけですよ。
それよりも今日はお連れ様がいるようですが紹介してもらっても……」
店の入口から入ってきたゾラには僕の後ろ姿しか見えずに声をかけたマリアーナの側まで来て初めて僕の顔を認識した。
「お、おまえはあの時の。
どうしてマリアーナさんがおまえと一緒にお茶をしているんだ?」
あからさまに動揺するゾラにマリアーナが事前に話し合っていた内容で僕の紹介をする。
「彼は私の仕事上のパートナーでこの街には護衛兼荷物持ちとして一緒に来ているのよ」
「護衛兼荷物持ちだって? こんなヒョロいやつが!?」
(いやいや、お前にそんなことを言われる筋合いはないぞ。
そっちこそ魔道具づくりの技術職でヒョロいだろうがしかも僕の2倍は歳もいってるだろうし)
僕はゾラの言葉を心の中でツッコミながらも表面上は全く出さずに涼しい顔で紅茶を飲みながらスルーしてやる。
「あ、そういえばおまえはカード収納持ちだったな。
しかも意味が分からないほどの馬鹿容量だった気がするな。
だから荷物持ちって訳か、なるほどな」
ゾラはひとりでブツブツとつぶやいたかと思うとひとりで勝手に納得してしきりにうなずいていた。
「そういえば前に話したこと、どうなりました?」
ゾラの様子を見ていたマリアーナがいま思い出したかのように彼に質問をなげかける。
「ああ、あれは……。
ちょっと
話は俺の工房でもいいか?」
「そうね。
それでいいけれど彼も一緒に連れていくわよ。
これでもいちおう護衛だからね」
不満そうな表情をするゾラにマリアーナがウインクをひとつすると彼は急にデレて「仕方ねぇな」と僕の同行を許可してくれた。
(マリアーナさん、いつの間にか彼を手玉に取ってたんだな。
しかし彼女の正体を知らないほうが彼に取っては幸せなのかもしれないな)
僕は内心でそんなことを考えながらマリアーナと共にゾラの工房に向かうことにした。
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