第96話【ロセリのスキル付与と部屋割り】

「ミナトさん。お久しぶりです」


 声に反応して後ろを振り向くとそこにはにこにこと笑顔で立つロセリがいた。


「ああ、久しぶりだね。

 どうだい? 仕事のほうはうまくまわってるかい?」


「そうですね。

 あれからノーズに帰ってすぐギルド便のお披露目用に荷物のカード化作業がパンパンに入って目が回りそうでした。

 でも、ミナトさんに教えてもらったやり方で効率よくこなしてなんとか無事にやってきました。

 そして、手紙でもお知らせしたんですけど収納スキルがついに5になったのでみんなよりも一足も二足も遅いですけど追加のボーナススキルの付与をお願いしたいです。

 はあはあ……」


 ロセリはここまで走ってきたうえに一気に話をしたので息をきらしていた。


「まあ、一旦落ち着こうか。

 飲み物を注文して少しばかり話をしてから訓練室で付与をしようと思うんだ」


 僕はそう言って自分と同じ果実水を頼んでそれをロセリへと渡した。


「あ、ありがとうございます」


 果実水を一気にあおったロセリは「ふう」と大きく息をはいて微笑んだ。


「とりあえず君の意向を聞いておきたいんだけど、どの方向で成長させるつもりなのかな?」


「それなんですけど実はまだ悩んでるんです。

 限界突破で地道にレベルをあげるのも嫌いではないんですけどやっぱりギルドでの仕事からするとすぐに時間停止のスキルは必要なんです。

 容量自体はそこまで必要に迫られてはいないのでどちらかだとは思っています」


 ロセリは空になったグラスをじっと見つめながら真剣な表情でそう話してくれた。


「ところでミナトさんは私のためだけにわざわざロギナスからノーズまで来てくれたのですか?」


 考えこんでいたロセリがふと顔をあげて僕を見るとそう質問をなげかける。


「そうだよ……と言いたところだけどちょっと別の用事でノーズに来る必要があったんだ。

 で、そのときギルドからの連絡で君がレベル5までたどり着いたと聞いて会いに来たってわけなんだよ」


「それなら良かったです。

 レベルアップが遅れたのは私の都合なのにそのためだけにわざわざ来てもらうのは心苦しかったんです」


 ロセリはそう言ってほっとした表情になった。


「――じゃあそろそろ訓練室へ行こうか」


「はい、よろしくお願いします」


   *   *   *


「それで、どちらにするか決まったかい?」


 訓練室についた僕はロセリに向き直りそう問いかける。


「はい。

 個人的には限界突破の方が夢があって良いのですが、今まで皆さんに遅れてしまっていた事やこれからすぐに必要なのなるものを考えたら時間停止をお願いする方が皆のためになるのではないかと思いました」


「わかりました。

 僕はあなたの意見を尊重しますのでその方向でスキルを付与させてもらいますね」


 僕はそうロセリに告げると彼女の手のひらに手を被せてスキルの付与をおこなった。


「――これでいいですよ。

 使い方は特に変わりませんので今までどおりにカード化してもらえば勝手に時間停止の追加スキルが付与されます。

 ただ、ひとつだけ注意するのが時間を停止するのと進むのを選択することが出来ないと認識しておいてください」


「それは常に時間停止状態となると思えば良いのですか?」


「そうなります。

 研修中に説明したかと思いますが時間停止のスキルが発動すれば発動しなかったときよりも消費魔力が多くなりますので一日にカード化出来る回数は減ります。

 まあ、これは自身の魔力量上限を上げれば自ずと解決するものですのでこれからもどんどん使って慣れることです」


「はい。

 本当ならばこの後でお礼に食事でもと思ってましたが、運送部門からの依頼がまだ残ってますのでこれで失礼します。

 本当にありがとうございました」


 ロセリはそう言って深々と頭をさげると慌ただしく部屋をでて行った。


(なかなか忙しいみたいだな。

 僕の提案から派生したものだからちょっと複雑だけどがんばってほしいな)


 ロセリがでていったドアを見ながら僕はそう応援をした。


「――さて、ロセリの方も片付いたし宿に戻って明日の準備でもするかな」


 僕は受付でロセリの依頼を完了したことを伝えてギルドの建物から出て宿に向かった。


 ――ちりちりん。


 宿に戻ると受付の女性が「お連れ様が先に部屋へ入られてますよ」と教えてくれた。


「ありがとうございます。

 それで僕はどちらの部屋になってるかわかりますか?」


 部屋は2部屋借りているのでメンバー的には男女別に割り振られているはずだからおそらく僕はダランと同室になるのだろう。


「えっと、ミナトさまは2階の角部屋201号室にお願いします」


「201号室ですね。

 ありがとうございます」


 僕は受付の女性にお礼を言って指定された部屋へ向かいドアをノックする。


「どうぞ、あいてますよ」


 ドアの向こうからはダランではなくマリアーナの声が聞こえてきた。


(あれ?部屋を間違えたのか?

 それとも、打ち合わせのために皆が集まってるのか?)


 僕は不思議に思いながらもドアをあけて部屋に入った。


「早かったわね。

 ギルドの依頼はうまくいったの?」


 部屋に入ると簡易テーブルに書類を積み上げて疲れた表情のマリアーナがいた。


「ええ、それは済みましたがどうしたんですか?


「ああ、これは兄さ……ディアルギルドマスターから今回の件の報告書を提出するように言われたのだけれど嫌がらせのような書類の量を渡されて気が滅入っていたのよ」


「そうだったんですね。

 僕に出来ることがあれば手伝いますけどギルド関係の書類なら無理っぽいですね。

 せめて紅茶でも頼んで来ましょうか?」


「そうね。

 そうしてもらえると嬉しいわ」


「では、下の受付で頼んできますね。

 ところで部屋割りってどうなっているのですか?」


 僕はふと気になっていたことを聞いてみた。


「部屋割り?

 隣の部屋に護衛の3人をあててこっちが私とあなたになるわよ。

 それがどうかしたの?」


 マリアーナは何を気にしてるのだろうといった表情で首を傾げてそう言った。


「――まあ、マリアーナさんが気にしないのであれば特に言うことはありませんよ。

 じゃあ僕は紅茶を頼んできますね」


 僕は少々思うところもあったがどうせこちらの意見など通るとは思えなかったのでスルーをすると決めて考えないことにした。

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