第90話【サンザンの村】

「バカ野郎!!

 見ていないで早く消してやらないか!!」


 あまりの事に固まってしまっていた残りの男がリーダーの叱咤しったで我にかえり慌てて仲間の火を消そうとするが水もない状態で転げ回る者の火など消せるわけもなかった。


御者コイツも魔法スキル持ちかよ!?

 なんでこんなやつらがこんな所を通ってやがるんだ!?」


「さてな!

 お前たちはよそもんだから知らねぇだろうがこのあたりをねぐらにする頭の悪い盗賊はいないんだとよ。

 さて、終わりにさせてもらうぜ」


 ダランはそう言うとリーダーの男にむけてスキルを発動させた。


「――豪腕剣!」


「ぐっ!」


 バキン!


「ぐわっ!?」


 一度は受け止められたかに見えたダランの剣は盗賊のリーダーが持つ剣を叩き折ってそのまま男の身体を深々と斬り裂いた。


「リーダー!?」


 それを目の当たりにした仲間の男は腰を抜かさんばかりに驚きの声をあげてその場から逃げ出そうと背を向けたがその直後、「開放オープン!」カードの開放宣言がなされアイスニードルの魔法が発動する。


「がっ!?」


 男は背中からで魔法を撃たれて身体中の骨を折りながら絶命した。


「やっぱり使えるな。

 こいつは別れるまでに出来るだけ補充しておきたいものだぜ」


 そう、カードを開放したのは他でもないダランだった。


「な、なんなんだよお前らは!?」


 火壁に突っ込み火だるまとなったふたりの男たちの火は結局消えず、ただひとり残された男が腰を抜かしてその場にへたり込んで叫んだ。


「なにってただの商隊と護衛だがそれがどうした?」


 怯える盗賊の前にダランが立ちにらみつけると「お前たちはどこから来たんだ?」と聞いた。


「となりの国から山を越えてきたんだ。

 あっちの国ではいま大規模な盗賊狩りが始まっているから国境を越えて逃げてきたんだよ」


「ふうん。

 で、こっちの国に来てからさっそく盗賊稼業の再開ってわけだったんだな。

 ま、しかたねぇよな商隊を襲って皆殺しをすると宣言しちまったんだからその状況がそっくりそのまま自分に返ってきても文句は言えねぇよな」


「ひっ!? ひいい!!」


 ダランはそう言うと最後のひとりに剣を突き立ててとどめをさした。


「それほどたいしたやつらじゃなかったが話を聞くと多少なりともとなりの国から盗賊どもが流れてくる可能性があるってわけだ。

 ギルドとしても把握しておく必要があるだろう。

 まあ、ちょうど運良くサブマスが同行してるからそのあたりはお任せしますよ」


 ダランは盗賊たちの死体を引きずって道脇の森に放り投げながらマリアーナにむけてそう言った。


「そうですね。

 出来ればもう少し情報が欲しかったですが生きたまま旅に同行させるのは難しいですし、ミナトさんのカード化で運ぶのも結局ノーズで開放してもらわなければなりませんので盗賊の口から余計な情報をしゃべられては面白くありませんからね」


 馬車から降りてきたマリアーナが盗賊の死体からいくつかの証拠品となるものを集めると「片付けたら先を急ぎましょう」と御者台へと戻っていった。


「――強くなられましたねダランさん」


 死体を片づけてふたたび移動をはじめた馬車の中で僕は素直な感想をもらす。


「はは、まあな。

 あれから武器も新調したしサーラとの連携もしっかりと練習をしたからな」


「そんなこと言ってまたバカみたいに突っ込んで行ったわよね?

 あれほど何度も言ったのに死にたいの?このバカ兄は……」


 自慢げに話すダランの横ではあいかわらずの呆れた表情で突っ込むサーラの姿があり僕もつられて苦笑をした。


   *   *   *


 予定外のトラブルもあったが僕たちはその後2度の野営を経て山奥の村『サンザン』へと到着した。


「――とまれ!」


 サンザンの村へ入ろうとすると入口で見張りの者に馬車を止められた。


「お前たち、いつもの商人ではないようだがこんなところへ何をしにきた?

 ノーズベリーは契約した商人にしか売ることは出来ないと知ってるな?」


 見張りの者はこちらを警戒するような目で御者と護衛を交互にみる。


「ロギナスからトウライ経由でノーズまで旅をしている商人の馬車でございます。

 特にこちらで仕入れるつもりで寄ったわけではありませんが何か必要なものがあれば卸すことができるかと思い寄らせてもらいました」


 マリアーナは出来るだけ不信感をもたれないような理由を述べて村に入れてくれるように頼んだ。


「そうか。それならば中央にある集会所へ向かうがいい。

 そこで休んでいる者たちに声をかければなにか買ってくれるかもしれんぞ。

 特に酒なんかあるといいが、さすがに持ち合わせてはおらんだろう?」


 少しばかり期待を込めて見張りの者が聞くと「お酒ですか? ありますよ」とあっさり声が返ってきた。


「なっ!? 本当か?

 こんな山道を酒なんか積んで走ったら入れ物が割れるかこぼれるかで割にあわないだろうに」


「まあ、ちょっとした運び方がありまして……。

 少しですけどどうぞ、差しあげますね」


 僕がこっそりカード化を解いたお酒をマリアーナはその見張りの者へ渡して微笑む。


「ま、マジかよ。

 この村にいる期間は酒なんて飲めるはずがないと思ってたんだ。

 ほ、本当にもらっていいんだな?

 後で高額な請求をされたりしないよな?」


 酒を前にテンション爆上がりの見張りの者だったがやけに慎重に何度も確認をしてきた。


「やけに心配しますね。

 前になにかあったのですか?」


「ははは。

 いや、前に似たようなことがあって質の悪い薄い酒を高値で買わされたことがあったんだよ」


「なるほど。

 それは災難でしたね。

 大丈夫ですよ、これに関しては村に寄らせてもらったことと商売の場を提供してくれたお礼ですから」


 マリアーナはまたニコリと微笑むと軽く頭をさげて村の中に馬車を進ませた。


「ありがとね。

 思ったよりもすんなり入れて助かりましたよ」


 馬車を目的の建物へむけて進ませるマリアーナが僕にそうお礼を言った。


「いえ、僕も村の中に入る必要があったので助かりました。

 僕もはやく目的のひとを探さないといけないですけど名前を呼んであるく訳にもいかないし、とりあえずその集会所にむかうのが正解でしょう」


 僕はそう答えながら白いコインと一緒にもらったメモに書かれている名前を読み返していた。


「ラウメ……か」

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