第83話【トウライの村を目指して】

 翌朝、いつもより早く目が覚めた僕は宿の精算を済ませ足早にギルドへと向かった。


「よう、久しぶりだな。

 今回はノーズまでだって?

 ずいぶんと遠くまで行くんだな」


「お久しぶりですミナトさん。

 最近は護衛の依頼が無かったですけどあまり森には行かれなかったのですか?」


 一番はじめに到着すると思っていた僕だったがダランとサーラの兄妹が先に待っており僕の顔を見ると挨拶をしてきた。


「ダランさんにサーラさん。

 今回は急にお願いする事になってすみません。

 用事で急いでノーズまで行かなければならなくなりましてギルドマスターに相談したらこんなかたちになったようです」


 僕は核心には触れないように目的はボカシながらも挨拶を返す。


「あー、ノーズへ向かう山岳ルートだってな。

 今が冬でなくて良かったな、冬は雪であのルートは封鎖されて使えなくなるからな」


「道幅も狭いし山道だから獣も結構出るんですよね?」


「そりゃあそうだろ。

 だから俺たちみたいな護衛を雇って旅をするんだからよ」


 サーラの問にダランが答え「そっか、そうよね」と納得をする。


 そんな事を話しているとガラガラと馬車が走る音が聞こえてきた。


「お待たせしました。

 この馬車でノーズへ向かう事になります。

 御者は私が務めますので皆さんは後ろの荷車に乗ってください」


 馬車を走らせて来たのはマリアーナで先日見た受付嬢の制服ではなく長い髪はきれいにまとめられており少々地味めな色の上服にパンツスタイルといった動きやすい格好でフードのついたマントを羽織っていた。


「あとはミーナさんだけですね。

 彼女と合流したら出発しますので荷物の確認をお願いします」


 マリアーナがそう言っているとギルドの入口からザッハが出てくるのが見えた。


「ほら、これが約束のものだ。

 コイツをノーズのギルマスに渡してくれ。

 ああ、道中はミナトがカード化しておいた方がいいだろうから頼んだぞ」


「わかりました。

 これですね、カード収納ストレージ


 僕はザッハから渡された品物をカード化し、自分のウエストポーチへとしまい込んだ。


 その時、馬車の後ろの方から声が聞こえてきた。


「すみませーんミーナです。

 遅くなりました」


「あ、ミーナさん。お久しぶりですね。

 今日はよろしくおねがいします」


 少し遅れてミーナが小走りに馬車へと近づいておりそれに気がついたサーラが手を振ってそれに答える。


「えへへ、お久しぶりですね。

 私は回復要員との事ですので戦闘は出来ませんが一緒に行っても良かったのですか?」


「もちろん、大丈夫ですよ。

 それに道中で前にやってもらったをお願いしたいと思いまして来てもらったんです」


 ミーナの不安に僕がそう答えるとマリアーナが怪訝けげんそうな表情で僕を見た。


「マリアさん。

 何か勘違いをされてませんか?

 別に僕たちは怪しい関係じゃあありませんよ。

 ちょっとスキルカードの補充をしたいだけなんですから」


「そうですか。

 あなたには大切な人がいると聞いてましたので軽はずみな行動や発言には気をつけた方が良いかと思います」


 マリアーナはそう告げると御者席へと座り僕たちが乗り込むのを静かに待った。


「――では、出発いたします。

 まずは町の北門から出て街道を北東に3日ほど進みます。

 そのあたりが山のふもとにあたる村でトウライと言って通称『冬越しの村』と呼ばれています」


「冬越しの村?」


「ええ、トウライの村から奥の街道は山岳地帯となっていてノーズの町までにもうひとつ村『サンザン』があるのですが冬には雪が降り積もるためサンザンの村人たちは雪が溶けるまでの間はトウライで暮らすためトウライは冬越しの村と呼ばれているのです。

 もちろん、今は雪の季節ではありませんのでそのあたりは心配されなくて大丈夫ですが……」


「その街道は馬車で通れるんですよね?」


「以前と状況が変わってなければこの規模の馬車なら通れるはずですよ」


 マリアーナは馬を器用に走らせながら僕の質問に答えてくれた。


   *   *   *


 移動は特にトラブルもなく、まもなく日が落ちると思われたころ少し開けた水場のある場所へ到着し、馬車がとめられた。


「今日はここで野営をしますので各自準備をお願いします。

 明日は日が登り次第出発をしますのでそのように行動してください」


 マリアーナは馬を近くの木に繋ぎながら皆に指示をする。


「食事の方は僕が全部持ってきてますのでテント設営をお願いします」


 僕はそう言ってポーチからテントのカードを取り出して開放をするとダラン達に渡す。


「あいかわらず常識はずれのスキルですね。

 これだけの人数のテントと食事だけで馬車の荷物が一杯になるのが普通なんですけどミナトさんがいるだけで旅の概念がまるで変わってしまいますよね」


 サーラがダランとミーナの3人でテントを組み立てながらそう話すとミーナがそれに同意をしながらうなずいた。


「こちらにもテントをお願いしますね」


 馬を繋いだマリアーナが僕の側に来てそう告げると新たに開放したテントを一組抱えて馬車の側に設置をした。


「では食事にしましょうか。

 一応この旅の間に皆さんが食べる分は確保していますが足りなければ途中の村でも調達しようと思っていますので遠慮なく食べてください」


 僕がそう言うとダランが嬉しそうに食事を平らげ始める。


「もう!

 お兄ちゃんったらそんなにがっつかないの!

 これから見張りをするのに食べ過ぎたら眠くなるでしょ!」


 ダランの食べっぷりにサーラが注意をして食べかけの食事を取り上げる。


「な、なにするんだよ!

 旅の野営でこんな食事にありつけるなんて滅多にないんだぞ。

 食えるときに食っておかなきゃ力がでないぜ」


 ふたりのやりとりを微笑ましく眺めながら僕も食事に手をつけた。


「――では、見張りの順番はこうしますのでなにかあった時は大声で起こしてください」


 中規模商隊ならば少なくとも護衛は4人以上は居るので前半、後半を2人ずつに分けて見張りをするのだが今回は護衛2人に補助が1人、それに御者と依頼人の合計5人だったが御者は馬車の操作中に眠くなってはいけないので除外し、僕を入れた4人で見張りを分担することにしたのだった。


「では先に休ませてもらうから時間になったら起こしてくれ」


 獣は深夜から明け方に行動する事が多いのでダランとサーラがその時間を担当する事になり僕とミーナが先に見張りの役目を担うことになった。


 僕とミーナはパチパチと燃える焚き火の前に座り、話をしながら時間が過ぎるのを待つ。


「私、実はロギナスから他の町へ行ったことが無いんです。

 だから今回の依頼を受けてノーズの町まで行けて、そのうえ帰りは王都方面から帰ると聞いてるので王都の他にエルガーの街にも行けるなんて夢みたいです」


「へー、そうなんですね。

 確かに隣町と言ってもエルガーでさえ馬車で5日もかかる距離ですからね。

 特別な用事でもない限り行く事はないかもしれないですね。

 僕も王都までは行ったことはありますがノーズの町は初めてでちょっとわくわくしていますよ」


 僕がそう話していると馬車とは反対の茂みからガサガサと何かが動く音が聞こえてきた。


「この辺りは盗賊はほとんどいないと言っていたし、何かの小動物かそれともボアクラスの獣か?」


「ふたりを起こしてきた方が良いですか?」


 ミーナの問に「いや、もう少し様子をみるよ。それにボアぐらいだったら僕でも対処できるからね」と言ってジッと茂みに集中をした。


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