第82話【美しすぎる協力者】
「――失礼します」
そう言って部屋に入ってきたのは見た目20代半ばの落ち着いた雰囲気を持つ女性でギルドの受付嬢の制服を身にまとっていた。
「お呼びだそうで、どういったご要件でしょうかギルドマスター?」
「ああ、呼び出してすまないが先ずはこちらに座って話を聞いてくれ」
ザッハは彼女にそう言ってソファへ座る事をすすめる。
彼女は僕の方へちらりと視線を向けるが直ぐに外すと「失礼します」と言ってザッハの隣へ腰をおろろした。
「この人が先ほど話していた協力者だ」
ザッハの言葉に僕は思わず「えっ!?」と声が出てしまう。
「……まあ、この外見を見れば誰でもそんな反応になるだろう。
だがコイツはこう見えておと……ぐはっ!?」
突然ザッハがうめき声をあげて脇腹を押さえる。
「おっ、お前いったい何を!?」
ザッハが涙目で彼女を見るが当の女性は涼しい顔で「あらギルマス、どうかされましたか?」と何事も無かったように振るまう。
「いや、いま私に何かしなかったか?」
「いいえ、何もしておりませんが。
ギルマスの気のせいかなにかの間違いではないですか?」
あいかわらず笑顔で答える女性だったが僕は彼女がザッハにひじ打ちをする瞬間を見てしまっていた。
(この人マジでやばい人かもしれない……。
見た目で判断すると痛い目にあうタイプだ)
そう思った僕は何も見なかったとばかりに話をそらすようにした。
「えっと、ザッハさんから聞いてるかもしれませんが僕はミナトと言います。
今回、とある事情でアランガスタへ行かなければならなくなり、まずノーズの町までのサポートをお願いしたいと思いザッハギルドマスターに相談したところあなたにお願いしてみろと言われました。
急を要する話で申し訳ありませんがどうか協力をお願い出来ませんか?」
「ああ、あなたがあのミナトさんね。
ギルド輸送の裏の立役者だとザッハから聞いていたけど会うのは初めてになるわね。
私はこの斡旋ギルドのサブギルドマスターを任されているマリアーナと言います。
同僚からはマリアと呼ばれているからあなたもそれで良いわよ」
「えっ?
サブギルドマスターですか?」
僕は思わずザッハに視線を送るが彼は黙ってうなずいた。
「そ、そんな大事な人が僕だけのために往復で1ヶ月近くかかる町まで出ても大丈夫なんですか?」
「まあ、確かにそれはあるだろうが今回は事情が事情だ。
それにノーズのギルドマスターはマリアの兄にあたるからコイツに行ってもらった方が彼の協力を得やすいと思ってな。
正直、ノーズからアランガスタへ向かう手配は彼の協力無しには無理だろうからな。
ああ、もちろん彼には私から手紙と土産を準備するからそれを一緒に渡してくれれば話は通じるだろう。
詳細はふたりで決めて貰って構わないから少し話し合ってみてくれ、私は手紙と手土産の準備をしてくる」
ザッハはそう言うと立ち上がり部屋から出て行った。
「もう、いつもながら勝手な事ばかり言う人よね。
私はまだ引き受けるともなんも言ってないはずなんだけど、この状態で断ったら私が悪者になっちゃうじゃないの」
マリアは苦笑いをしながらも僕に対して向きなおり「さてと」と言ってザッハの準備していた資料をテーブルに広げた。
「これはこの国の町や村の場所が大まかに書かれた地図なんだけど、いま私たちが居るのがここロギナスの町ね。
そして東へ向かって馬車で5日程度の距離にエルガーの街があってさらに東へ5日行くと王都があるわ。
そしてその王都から南へ向かうとザザリアの町、北へ向かうとノーズの町よ」
マリアは簡易地図を指で指し示しながら説明を続ける。
「普段ならばこの街道沿いにエルガーに向かいそのまま王都を経由してノーズへと行くのが定石ですが、どうやら王都へは寄らない方が良いようですので思い切って今回は北の山岳地帯をショートカットするルートを推奨します。
ただ、こちらの道は大型の馬車が通れるほどの道幅が無いため小型の馬車での移動になります。
ノーズまでの道すがらには町はなく小さな村がふたつあるだけで宿屋もありませんので水と食料の補給が出来ればといったところですね」
僕は簡易地図を見ながらマリアに質問をする。
「こちらの道を使った場合、何日でノーズの町にたどり着く予定でしょうか?」
「全て順調にいった場合で約10日くらいですね。
ただ、あまり整備されていない道ですので途中でトラブルがあるかもしれない事は否定できません。
本来ならば数名の護衛を要する旅になりますが情報の拡散を防ぐためにも信用の出来る者でなければ後になって足をひっぱられる事になるでしょう。
ミナトさんはどなたか良い人を知っていますか?」
「護衛ですか……。
ランクがまだ低い冒険者ならば知り合いがいますが高ランクとなるといませんね。
あ、それと僕のスキルの検証につきあってくれたヒーラーの人がいます」
「知り合いって事はあなたのスキルについてそれなりに知っているということなんですね?」
「ええ、何度か東の森へ行くとき護衛をしてもらっていますから」
「そうですか……」
マリアはそこで黙って考え事を始め数分後に「その方たちの名前を教えてもらって良いですか」と言った。
「ダランさんにサーラさん。そしてミーナさんですね」
「わかりました。
少しだけ待ってもらってもいいですか?」
マリアはそう言い残して僕の返事を待つことなく部屋を出て行った。
「お待たせしました。
先ほどの護衛の件ですがその3名に指名依頼をする事になりました。
本来ならばランク不足なのですがギルマスの特別依頼のかたちでお願いすることにしました。
出発は明日の朝一番になりますので旅に必要な物資の調達をしておいてください。
今回は小さな馬車一台で移動しますので5人が乗ったら荷物はほとんど積むスペースは無いでしょうからあなたのカード収納だけが頼りになりますことを言っておきますね」
「わかりました。
10日の道のりを5人分きっちりと準備しておきます」
「馬車の手配などこちらに出来る事はしておきますので明日の朝ギルドに来るようにお願いしますね」
マリアはそう告げると僕をギルドの入口まで見送ってくれた。
* * *
「行ったか……」
僕が物資の調達に走るためギルドを出た後でマリアの後ろからザッハがあらわれた。
「ええ、今回の移動は時間が勝負でしょうから北のルートを推薦しておきましたよ。
多少の不安はあるけどなんとかしてみせますよ。
でも、良いのですか彼に本当の事を言わなくて……」
「……隷属の首輪の件か?」
「ええ、本来の隷属の首輪は純白なはずで漆黒のものは製造技量不足の不良品のはず。
これは一度着けたら二度と外せないと言われているのよ」
「確かに私たちはそう聞いている……だが本当にそうなのかは魔道具を作る者たちに聞かなければ分からない。
私たちは信じるしかないんだよ」
ザッハは僕が走っていった方角を厳しい目で見ながらそうつぶやいた。
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