第79話【忍び寄る悪意】

 ギルド発表が行われた次の日のにはギルド便で無事にお披露目会議が終わり正式にギルド運送部門が認可されたとの手紙が届いた。


 まだ一般への告知が広まっていないためすぐに仕事がパンクする事は無かったが、お試し期間を設けて認知を広げるように各ギルドへ指示が飛んでいた。


   *   *   *


 そしてギルド運送が始まって10日あまりが過ぎた頃……。


 ――からんからん。


 まだそれほど忙しくはないだろうと思いながらも正常に機能しているか心配になった僕は様子を見るために斡旋ギルドを訪れると顔見知りの受付嬢が声をかけてきた。


「あ、ミナトさん。

 ちょうどいいところに……。

 先ほど王都からノエル雑貨店用の荷物が今回導入された運送方法で届いてるんです。

 本来ならば担当のナムルがカード化を解いて現物にしてから配達するのが手順なんですけどミナトさんはナムルの先生なんですから当然カード化の開放は出来ますよね?

 でしたらこの荷物はカード化してあるままにノエル雑貨店へ届けてその場にて現物化をしてもらえませんか?

 もちろんギルドからの依頼ですので報酬はありますので……」


 この後ちょうどノエルの店には顔を出す予定だったので僕は二つ返事でOKをした。


「良いですよ。

 ちょうどこの後お店に顔を出すつもりでしたから。

 それよりナムルさんは順調にこなせていますか?」


「ええ、最初こそ戸惑いがあってか無駄に魔力を消費して予定通りにカード化出来なかったのですけど3日もしたら慣れてきたのか予定通りに出来るようになりましたよ」


「それは良かったです。

 しかし、彼一人に全て任せるのは負担が大きすぎるので早急に部下を育成してあげてくださいね。

 僕に何か出来ることがあれば協力しますので連絡をください」


 僕はナムルに会っていこうかと思ったが不用意に手伝ったりすると逆に予定が狂うことになるので受付嬢から配達依頼書とカード化された荷物を受け取りいつものウエストポーチに収めてギルドを出た。


   *   *   *


 僕が歩いてノエル雑貨店へと向かうためにギルドを出た頃、お店ではノエルが在庫の整理をしていた。


 ――からからん。


 お店のドア鐘が鳴るのを聞いたノエルはミナトが来たのだと思い笑顔で振り向いたがそこには予想外の人物が立っていた。


「――お久しぶりですね。

 ノエル嬢、1年ぶりくらいですかね。

 ますます美しさが増しておられてなによりですね」


「ザ、ザガン様……。

 どうしてここに?」


「いえ、少々こちらの町に用事がありましてね。

 これでも商会の部門長を任されておりますので……」


 ザガンは二人の取り巻きと共に笑顔のままゆっくりと店内に入ってきた。


「ザガン様、本日はどのようなご要件でしょうか?」


 内心警戒をしながらもノエルはあからさまな態度を出すことは出来ずに当たり障りのない対応を心がける。


「いえ、あなたのお父様から予想もつかないお話を頂いたものですが、にわかには信じられず是非とも本人の口から真実をお聞きしたいと思いましてね」


 雑貨店を訪れた理由を述べるザガンは笑顔を崩す事なく淡々と話を進める。


「以前、お食事にお招きした際にあなたとの婚約をお約束したと思っておりましたが、いやはやマグラーレ様は何をご乱心されたかテンマート運送の物流運送部門の責任者となった私ではなく、どこの馬の骨か分からない者を私に何のお話も無いままあなたの婚約者としてお認めになったとか……。

 あなたはそれで良かったのでしょうか?」


 笑顔だったザガンの表情が僅かにピクリと動くがまだ声を荒げることはなくノエルをじっと見る。


「婚約に関してはわたくしには決定権はありません。

 全てお父様がお決めになった事でございます。

 婚約のお相手となられた方もザガン様に負けず劣らず商会に貢献をされた方と聞いております」


 ノエルの言葉にずっと笑顔を貼り付けていたザガンの表情が一転した。


「は?

 いったい誰と比べていると思ってるんだ?

 俺様と同等の男など他に居るわけがないだろうが!

 本当にお前の父親は誰が優秀かが分からない大バカ野郎だな!」


 突然ザガンはそう叫ぶと「ああそうだ」とニヤリと笑いながらポケットからある装飾品を取り出した。


「先日、ある商人から素晴らしい魔道具を手に入れましてね。

 是非ともあなたにプレゼントしたいと思いこうしてわざわざこんな田舎町まで足を運んだのですよ。

 受け取って頂けますよね?」


 ザガンの取り出した物は綺麗な装飾のある真っ黒のチョーカーだった。


「いえ、今の私はザガン様からプレゼントを頂ける立場ではありませんのでご遠慮申しあげます」


 ノエルは出来るだけザガンを刺激しないように言葉を選びながらプレゼントを受け取ることを拒否した。


「なんだと!?

 俺様がわざわざ持ってきたプレゼントが受け取れないだと?

 いやいや、単なる聞き間違いだろう?

 そうですよね? ノエル嬢」


 ザガンはそう凄みを効かせて『ズイ』とノエルに歩み寄り彼女のすぐそばに来ると恐怖で動けないノエルの首にチョーカーを付けた。


 ――パチン。


 チョーカーの金具な閉まる音が鳴る。


「おお! これはお似合いだ。

 これであなたは私のもの。

 他の誰にも渡しませんよ。

 はははははっ!」


 ――からからん。


 ザガンが歓喜の笑いをあげた時、店のドア鐘が鳴る。


「おや、どうやら一足遅かったようですね」


 完全に勝利を確信していたザガンは感情を荒立てる事なく言葉使いも落ち着いたふうに話す。


「ノエルさん、荷物がとど……」


 店に入ってきた僕はドアの両脇に控える強面の男たちにひるみ次の瞬間ノエルの側に立つザガンを見て叫ぶ。


「ノエルさん!?

 お前! ノエルさんにいったい何をした!?」


「おい!

 ザガン様を『お前』呼ばわりするなど殺してくれと言っているようなものだぞ」


 僕の叫びに両側に居た男たちが僕の両腕をガッシリと掴み見動きを封じた。


「そうか、キサマだったのか……。

 彼女の父親をそそのかし、うまいこと取り入ったようで……だがこの俺様のものを奪ったお前だけは許せない……。

 しかし、ここでお前を痛めつけたり殺したりしても俺様の怒りはおさまらない。

 そこで……だ、お前が死んだほうがマシだと思える事をしてやろうと思ってわざわざ来てやったんだ。

 これを見るがいい」


 ザガンはそう言ってノエルの首に巻かれている黒のチョーカーを見せつける。


「これが何か教えてやろう。

 これは『隷属の首輪』だ。

 俺様は優しいからこいつの効果も教えてやろう。

 後で聞かなかった方が良かったと言うかもしれんがな」


 ザガンは押さえつけられて見動きの取れない僕を見ながらニヤニヤとしながら話を続けた。


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