第67話【アーファの本音と僕の責任】
「
「
真水亀をカード化しては戻す訓練を繰り返す事に集中していた僕は部屋の入口から呼ぶ声に気が付かなかった。
「ミナトさん! ミナトさん!」
「
「ミナトさん! ミナトさんってば!」
あまりの無視っぷりに声の主はしびれを切らして部屋に入り、僕の肩を叩いてくる。
「ミ・ナ・ト・さ・ん」
「うぉっ!?」
突然肩を叩かれた僕は驚いて真水亀のカードを落としてしまう。
僕が慌てて振り向くとアーファが先ほどから特訓している水のカードを数枚ひらひらさせながら笑っていた。
「なんとなくですけど水をカード化するコツが掴めてきました。
ですが、言われたように効率が良いためか消費する魔力も増えるみたいで数回カード化しただけなのにもう休憩をとらないといけなくなりました。
ところでミナトさんは何をカード化して経験値を稼いでいるのですか?」
アーファはそう言って僕が落としたカードをひょいと拾い上げて内容の確認をする。
「これ、真水亀じゃないですか!
成長すると甲羅の大きさが1メートルを越える大型の亀ですよね?
凄いですけどこのサイズの亀をカード化するにはどのくらいのレベルが必要なんですか?」
「死んでいる亀ならば、この大きさでだいたいレベル5になればカード化出来るようになると思うよ。
そして今僕がやっている生きているパターンならば7レベルほど必要になるかな」
「レベル7ってメインスキルでなければ無理じゃないですか!?
私たちみたいなサブスキル持ちだと最高まであげてもレベル5なんですから……」
「まあ、それは誰にでも言える事で誰しもメインスキルを持ってるんだからその能力を中心に仕事をしている人が多いだろうし、たまたま僕はカード収納スキルがメインだったというだけだよ」
「まあ確かにそうなんですけど、あれだけ周りから『使えない』と評価にもならない扱いを受けていたカード収納スキルを急に『必要になったからレベルを上げてこい』と言われても……」
「納得がいかない?」
「そうですね。
でも、研修の名目でレベルあげが出来て報酬が保証されているのと結果を出せばさらに地位と報酬の上乗せが期待出来るというからにはやってみる価値はあるとは思っているわ。
まあ、私の場合はメインが調理だからギルド食堂との兼任みたいになって仕事ばかりが忙しくならないと良いんだけどね」
「アーファさんの作る料理は美味しいので食堂には痛手でしょうけど」
「うーん。どうでしょうね。
私くらいの料理人ならばちょっと待遇を良くした募集をすればいくらでも集まると思いますからいざとなれば新部門をメインにして暇な時だけ食堂を手伝う形にしてもらいますよ。
それに今回の研修期間は1年ですからそれまで新しい料理人が入らないなんてことはないですので戻っても調理場に私の居場所はないと思った方が良いでしょうし」
「そうなんですか?」
「斡旋ギルドといえば国の組織ですからね。
なにもしない人材を抱えておいてくれるほど優しくはないですよ」
アーファはそう言って苦笑いをした。
「それはナムルさんも同じなんですかね?
そして、これから送り込まれてくる研修生の人たちも同様に今している仕事を他人に預けて来ることに不満を持ってるのでしょうか?」
僕は突然、不安にかられて思わずアーファにそう聞いていた。
「それは無いと思います」
「えっ?」
僕の不安とは全く逆の反応に思わず言葉が流れ出す。
「でも、それまでやってきた仕事が無くなるかもしれないのですよね?
確かに新しい部門の創設メンバーとなる権利はありますが、成功しなければ研修期間の時間とその期間に経験出来るはずだったものが無駄になるのですよ?」
いまさらなのだがアーファの話を聞いて僕のやろうとしている事は本当に多くの人の命運を握っているのだと気がつき後悔の念が頭をよぎった。
「そんなのよくある事じゃないですか」
僕の言葉を聞いたアーファはなんでもないとばかりにそう答える。
「まあ、私の場合は対応したスキルを持つメンバーの中で1年間の研修でギルドを空けてもなんとかなる人材の筆頭にあげられて選ばれたんですけど、別にギルドに要らないから選ばれた訳じゃなくてたまたま人事異動が可能だっただけなんですから。
それにこの研修が無事に終われば要所のリーダーですよ?
はっきり言って同期の仲間内ではぶっちぎりの出世頭になるんです。
こんな美味しい話を自分から辞退する人なんて逆にギルドからすれば要らない人材の筆頭と考えられてもおかしくないですよ?」
「……アーファさんは凄いんですね」
僕は彼女の前向きな発言を受けて素直にそう伝える。
「いえいえ、本当に凄いのはミナトさんの方ですよ。
今まで冷遇されていたカード収納スキルがメインスキルでありながら王都ギルドの上層部を動かす程の実績をあげてみせ、今回のような企画を実現た手腕は本当に尊敬に値するものです。
まだ外部には
これはナムルさんも同様の事を話してましたのできっとそうなのてしょうね。
そんな訳ですので私たちに対して『自分の夢に巻き込んで申し訳ない』とかは考えないでくださいね」
アーファはそう言って僕に笑いかけると「そうそう」と言って続けた。
「でも、企画の成功は絶対ですのでこれからもしっかりとした、そして少しだけ楽しめる指導を宜しくお願いしますね」
「はい。
面白くなるかはわかりませんが皆さんが「受けて良かった」と言える研修になるように頑張りますね。
あ、せっかくアーファさんが様子を見に来てくれましたので休憩を兼ねてお茶にしましょうか。
ナムルさんの様子も見ておきたいですし、カード収納スキルについての知識をお話しおくのも必要かと思いますので……」
「あ、それは嬉しいですね。
カード収納スキルって不遇扱いたったからスキルの情報があまり知られていないんですよね。
ギルドにはその手の情報が書いてある本もあるけれど図書室でじっくり読む暇も無いし、借りるにはちょっと恥ずかしかったから読んでないんです」
「そうなんですね。
まあ、僕の話はメインスキルがカード収納スキルの自分の経験上の事なんでサブスキルの方との違いが分からないですけど参考程度にはなるとは思います。
では、食堂の方に集まりましょうか」
「はい。
じゃあ私はナムルさんとオールさんに声をかけて行きますね」
アーファはそう言うとあっという間に部屋から出てふたりを呼びに向かった。
「僕の責任……重く受け止めて絶対に成功させなきゃな」
アーファのいなくなった部屋で僕はそうつぶやいて右手をグッと握りしめた。
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