第66話【無駄の出ない方法】
「午後から研修を再開しますが少し準備をしますのでその間は休んでいてください。
出来ればお昼寝などすると魔力の回復が早いと思いますよ」
僕はふたりにそう告げると管理人であるオールにこのあとで使う予定のある物の準備をお願いする。
「わかりました。
ではそのように準備をしておきますね」
オールは僕にそう言うと食事を早々に済ませてから奥の部屋へと入って行った。
「――お待たせしました。
準備が整いましたのでさっそく研修を再開しましょう」
オールは僕が頼んだとおりの道具を全て揃えてくれており、その前ではアーファが微妙な表情でそれを見ておりその側ではナムルが何かを考えていた。
「これってタライに水が張ってあるだけですよね?
これがカード収納スキルの練習になるのですか?」
アーファは用意されたタライ水を眺めながらそう聞いてくる。
「今のレベルだとこの方法が一番効率的だと思うから騙されたと思って試して欲しいです」
僕はそう言ってナムルの方をみると彼は少し小さめの空のタライを側に置くとおもむろに右手をタライ水の中に突っ込んだ。
「……ナムルさんはこの訓練の意味に気がついたみたいですね」
詳しい説明をする前にナムルは真剣な表情でスキルを発動させる。
「
次の瞬間、ナムルの手には一枚のカードが握られていた。
【水のカード:綺麗な水】
カード化されたカードは紙ではないので水に濡れても破れることはない。
「つまりこういうことなのですよね?」
ナムルは僕にそう言うとカード化したものを空のタライの上で開放する。
「
カード化されていた水が元に戻り空のタライを濡らす。
だいたいコップ一杯くらいの水ではあるが容器に入っていない流動性のある水がカード化出来た事にアーファが驚きの表情を見せる。
「カード収納スキルって固形のものしかカード化出来ないのだと思ってました」
アーファの感想に僕は「そうですよね。実は僕も初めはそう思ってたんです」と同意をした。
「レベル5までは一辺が決まったサイズの立体的な空間がカード化出来る範囲でそれを越えるものはカード化出来ないと思い込んでいたんです。
ですが、今回ナムルさんが果実水をカード化してきた事によってカード化出来る空間は容積だけ決まっていて正立方体とは限らない事が証明されたんです」
僕が興奮気味にそう説明をすると意味の理解出来ているナムルは小さくうなずき、いまひとつ理解が足りないアーファは「うーん」と首をひねっていた。
「とにかく、このやり方を繰り返すことで予定よりも早くレベルアップ出来ると思います」
「それはなぜですか?」
「効率が最高に良いからですよ。
ナムルさんはこの意味が分かりますよね?」
僕はナムルを見てそう問うとナムルは静かにうなずいた。
「カード収納スキルでカード化出来る大きさはレベルに比例するけれど普通に固体の物をカード化していたのではカード化出来る最大限のパフォーマンスには至っていない、普段ならばそれで問題ないのだけれど今回はレベルアップが最大の目的だから容量一杯をカード化した方が経験値……でいいのかな?……が多く取得出来るので効率良く特訓が出来ることになる……であってますか?」
ナムルはもともと口下手なところはあるがギルドの採用試験も上位でクリアしており仕事もソツなくこなしているとの話はギルマスから聞いていたが、これほど早くカード収納の特性と効率的なレベルアップ方法を導き出す能力があったことに僕は内心驚いていた。
「ええ、完璧な解答をありがとうございます。
これならば1ヶ月以内に加わる主要な町からの他の研修生が来る前にレベル3になれそうです。
では、各自頭痛が自覚出来るようになるまで繰り返しスキルの特訓をお願いします。
僕は隣の部屋で自分のレベルアップの特訓をしていますのでなにかあれば声をかけてください。
あ、オールさんは出来ればおふたりの特訓を見ていてください。
様子がおかしければすぐに特訓を止めて僕を呼ぶようにお願いしますね」
「わかりました。
おふたりの様子を見ておきたいと思います」
僕はオールの了承を受け取ると隣の部屋に移動し、自分の特訓をする準備を始めた。
(ここでは魔法のカード化は出来ないから生き物のカード化を繰り返すのが最適だろう。
僕の場合は人よりも経験値が溜まりやすいみたいだから容積一杯でなければいけないことは無いんだけれどいつまでも虫や小動物程度ではレベルは上がらない気がするをんだよな。
いっそのこと禁断の人間のカード化でもするか?
いやいや、多分だけどそれがバレたら大騒ぎになりそうだよな。
ギルマスにも止められているし……)
僕はウエストポーチの中から使えそうなものは無いかとパラパラとカードの内容を確認していくとあるカードを見たときに良いことを思いついた。
「あ、これ使えるかもしれない」
僕はそうつぶやきある物を開放した。
「
ゔぉぉぉ。
「あいかわらず動きが遅いから逃げられる心配はないんだけど、とても食べる気にはならないから今度水辺に行った時には逃してやろうと思いながらもなかなか機会が無くてカード化したままだったんだよな。
まさかこんなところで役にたってくれるとは思わなかったよ」
僕はそう言いながら開放した真水亀の甲羅を撫でた。
――真水亀は綺麗な清流の滝壺などに生息する直径1メートルを越える甲羅を持つ大型の亀でこの亀は岩に挟まれた状態で見つかったのでその場でカード化したのだが後で逃がそうとしたのを忘れていて今に至る。
「何度もカード化と開放を繰り返すのはなんとなくかわいそうな気もするが、言葉が話せないので勘弁をしてもらうしかない。
とりあえず10回ばかりカード化と開放を繰り返せばなんとかなるだろう」
僕はそう言って特訓モードを開始した。
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