第48話【マグラーレとの交渉】
「君が
お互いに
君は我がマグラーレ商会にどんな有益なことをもたらす事が出来る?」
僕の目から視線を外さないままにマグラーレは淡々と言葉を続ける。
「
ザガンというテンマ運送の跡取りだ。
当人の資質はまだまだ青いがこの国の馬車運送の大部分を担っているテンマ運送の跡取りとなればその影響力は計り知れないものだ。
確かに今の君のスキル内容を聞く限り限定的ではあるがかなり有益である可能性は秘めているだろう。
だが、それだけだ。
仮に君のスキルで王都からロギナスへ大量の荷物を運ぶとして馬車10台分の荷物をカード化出来たとしよう。
おそらく君はそのカードを持って馬を走らせて馬車で5日かかる道のりを2日で運ぶことが出来るかもしれない。
しかし、それが出来るのは君だけだ。
例えば王都からロギナスだけでなく同時に多方面への運送が必要な場合はどうする?
いくら早く運べても多くの人材を抱える商会の力には勝てないのだよ。
それとも、それさえも覆すことの出来る提案を君に出すことが出来るとでも言うのかね?」
マグラーレの言葉にその場にいる僕を除く者たち全員が現実の壁に『無理』だとの表情をする。
当事者であるノエルでさえも諦めの表情で口をキュッと結んでうつむいていた。
「――そうですね。
いま現在の時点ではどう足掻いても無理でしょう」
「では、
まあ、それだけの
マグラーレは僕からの回答を待たずに勝手に話を進めていく。
「――ちょっと待ってください。
僕はいま現在はと言いましたよね?
いまの僕では大手の運送商会には勝てません。
それは認めますが、いまから2年……いえ、1年ほどの期間とこの場におられるランスロットギルドマスター様とマグラーレ様が僕に協力と投資をしてくださればこの国の運送業界が全く違う世界に発展させる事が出来るでしょう。
つまり、いま現在この国の運送業界を牛耳っているテンマ運送はその力を失い荷物運送の分野から撤退せざるを得ない状態となります。
この話、受けて貰えませんか?」
僕はマグラーレに対して一歩も引かないで堂々とした態度で提案をする。
「な、なにを血迷った事を言っているのだ?
お前がひとりだけ人並み外れた能力があろうとも国内一の運送商会相手にたかだか1年でそのシェアを奪う事が出来る訳がない!
そのような
マグラーレはそう言い捨ててソファから立ち上がろうとする。
「――まあ、待て。
そう
怒りで話を終わりにしようとするマグラーレの肩に手を置いてランスロットが止める。
「横から口を挟んで悪いとは思うが先ほどの話でマグラーレ君と私の協力があればテンマ運送を越える事が出来ると言ったね?
あれはどういう意味かな?
1年でと言うからには当然具体的な構想があるのだろうがそれは実現可能なのか?」
鋭い目つきで僕を見定めながらランスロットがそう問いかける。
「本当に1年で出来るかの確約はできませんが、理論上は実現可能なはずだと思っています」
「ふむ。
それで私にしてもらいたい協力とはなんだ?」
「それは協力して貰えるという事ですか?」
「それは……内容次第だな。
出来ることは出来るだろうし無理なものは無理だからな。
まず全体の構想を説明してそれに関して何が必要で何が出来るかを判断しなければ何も進まないのは分かるな?」
ランスロットはマグラーレの肩に置いていた手を離し、ソファへ深く座り直すと手を前で組みながら僕の話を待った。
「お話をする前にふたつ約束をしてください。
いまから話す構想について協力して頂けないのであれば話した内容について全て聞かなかった事にしてください。
そして、今後僕がその構想に向かって動くと仮定したときに僕のやる事に対して妨害をしないと約束をして頂きたいのです。
もちろん協力して頂けるならば最大限の利益譲歩はお約束します。
宜しいですか?」
「ほう。
そこまで自信のある構想ならば聞いてみたいものだな。
――いいだろう。いまの条件を約束してやるから話してみるんだな」
一度は退席しようとしていたマグラーレが商売人としての匂いを感じてか態度を変えて僕の話に乗ってきた。
「ありがとうございます。
では、全体像から……」
僕はいま自分に出来る事とこの世界にある技術を合わせる事により現実世界では実現出来なかった夢の運送手段をふたりにプレゼンしていった。
「……そ、そんな事が本当に実現可能なのか?」
ランスロットが先に口を開きそうつぶやく。
「……確かにこの運送手段が確立されれば現在の運送手段が全く意味のないものと化してしまうだろう」
続いてマグラーレも同様に感想を言った。
「……しかし、これだけの構想を国営とはいえギルドと大手とはいえひとつの商会が推し進めて良いものだろうか?
やはりギルドとしては国王ならびにその側近へ伺いをたてるべきではないか?」
ランスロットは王都斡旋ギルドのマスターとして国営のギルドで運送の
「それはやめておいたほうが良いと思います」
「何故だ?
国が後ろ盾になった方がいろいろな準備をするにやりやすいと思うのだが?」
国王に伺いを立てるとの話に僕が反対をするとランスロットがすぐに反応する。
「このような
もし、そんな事態になるようでしたら仕方ありませんので僕はこの話を持って他国へ行きます。
そして僕の理想の運送手段を実現させようと協力してくれる国を発展に導きたいと思います」
僕の言葉に考え込んでいたマグラーレがその口を開いた。
「……それで、わたしには何をして欲しいと言うのだ?」
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