第44話【王都への到着と豪華な宿】
「さて、もうこの邪魔な巨木はどけても良いでしょうから片付けてしまいますね」
僕はそう宣言すると半分砕けかけた巨木とそれを受け止めたもう1本の木をカード化していった。
「――
僕がスキルを使うと道を大きく塞いでいた巨木がまたカードになって倒れたレッドボアの姿だけがその場に残された。
「しかし、本当に勝てるなんて思わなかったぜ。
いや、むざむざ死ぬつもりは無かったんだが、最悪でも相討ちに持っていくくらいの覚悟はしていたんだがな」
倒れたレッドボアを見下ろしながらヤードがそう呟く。
「いえ、ヤードさんの最後の攻撃は見事でしたよ。
あれだけの攻撃力はスキルに加えて日頃からの鍛錬がなければ成り立たないものだと思いますよ」
「まあ、俺も相当鍛錬はしてきたつもりだが、なにより奴を止めてくれたのが大きかったぜ。
俺たちが総出で動かせなかった巨木を一撃で1本砕いたあの突進力は普通の人間では絶対に止められなかったはずだからな。
その意味からしてもあんたのしてくれた事は感謝しかないさ」
「そう言って貰えると僕も嬉しいです。
あ、このレッドボアは王都のギルドに提出するんですよね?
討伐依頼は受けてないでしょうけど説明が必要でしょうし、常時買い取りをしてもらえばそれなりの金額になりますよね?」
僕はそうヤードに言いながらレッドボアの体に触れてスキルを唱えた。
「――
スキルの発動と共に手のひらから出た光がレッドボアの体を包み込むと次の瞬間には音もなく一枚のカードと化して僕の手に収まっていた。
「うおっ!? すげーな。
だが、まあ確かにあの巨木がカード化出来るんだからこのサイズのレッドボアをカード化するのも出来なくはないのか……。
だが、目の前でカード化をされないととてもではないが信じられない光景なんだがな」
ヤードの言葉に銀の剣のメンバー全員が生暖かい目でウンウンとうなずいた。
「これは旦那様に報告をあげないといけませんな。
ミナト殿、護衛の奮闘があったとはいえ無事にお嬢様を守れた事に感謝する。
この度の件は旦那様に報告させて頂くつもりだがよろしいかな?」
アルフィードは今回の件で僕の能力の高さを感じ取り、今までとっていた態度を改めてようやく客人扱いとして話をしてくれるようになった。
「僕は戦闘ではそれほど貢献してはいませんがスキルに関しては期待に応えられるように努力はしてきたつもりです。
ノエルさんに恥をかかせないようにとだけ考えて話を聞いて貰えるようにしますので宜しくお願いします」
僕はそうアルフィードに伝えると「そろそろ暗くなりますので夕食をとってから休みませんか?」と言って温かい食事を皆に差し出した。
* * *
次の日の朝、戦闘で疲れていた護衛のメンバーは索敵役のグラムを馬車の先頭に配置し、残りのメンバーは荷台で休みながら王都へ向かっていた。
3人が休むためのスペースは荷物をカード化して空けることにより確保している。
「くあぁぁっ!」
グラムが眠気を覚ますために大きく伸びをすると同時に街道のはるか先に高い外壁に囲まれた王都の町並みが見えてきた。
「もう少しで王都へ到着となります。
ノエルお嬢様は旦那様がお呼びですので屋敷の方へ、お連れの方はこちらで予約をした宿で一晩休まれて明日の午後に迎えを出しますので王都のギルドにて旦那様とギルドマスターを交えて面会をして頂くようになります」
そうアルフィードは僕達に伝えてから王都へ入る準備を始めた。
「止まれ!
通行証の提示と通行料の支払いをするように」
王都の大きな門までたどり着いた馬車は門兵に止められ街に入る手続きを求められアルフィードが対応をする。
「よし! 通っていいぞ!」
もともと、王都から出発した馬車が帰ってきただけなので問題なく馬車は街に入る事が出来た。
「では、先にお連れ様の宿泊先へ向かいます」
アルフィードはそう告げると馬車を西に向けると10分ほど街道をゆっくりと進ませた。
その間にノエルが僕に「私はお父様に今回の件を報告して私なりにミナトさんの事を納得させる努力をしてみます」と真剣な表情で話してくれた。
やがて馬車が止まるとアルフィードが僕に告げた。
「――こちらの宿になります。
お連れ様……ミナト様はこちらにお泊りください。
明日の午後すぎにお迎えの馬車が参ります。
受付にこちらをお渡しすれば部屋の手配から支払いまで全て出来るようになっております」
アルフィードはそう言って一通の手紙を僕に渡してくれた。
「では、明日の午後までゆっくりとなされてください」
アルフィードは僕を降ろしてからそう告げると馬車を発車させた。
(いよいよ明日か……。
うまく話がまとまればいいんだけど)
僕はそう考えながら宿のドアをゆっくりと開けた。
「ようこそ
お泊りですか?」
宿に入ると受付から元気の良い少女の声が部屋の中に響き渡る。
「その予定だけど、この手紙を見て貰えるかな?
一応、紹介状のようだけど……」
「紹介状ですか?
どちらからのものでしょうか?」
僕から手紙を受け取った少女は裏書きの名前を見てすぐに「少しお待ち頂いていいですか?」と僕に断ってから奥の部屋に飛び込んだ。
――数分後、先ほどの少女が宿の主人らしき男性を連れて戻ってきた。
「これはこれは、マグラーレ商会の客人でございますね。
お部屋の準備はすぐに出来ますので少しお待ちください。
予定では明日の昼食後に迎えがくるとありますが間違いないでしょうか?」
「僕も詳しくは聞いてませんが、先ほどアルフィードさんからそう聞いていますので間違いないかと……」
「わかりました。
ではそのように致しますのでごゆっくりされてください。
……部屋の準備が整ったようですので彼女について行ってください」
宿の主人はそう言って先ほど対応してくれた少女に向かって指示を出してからもう一度お辞儀をして奥の部屋へと戻って行った。
「ではお部屋に案内致しますのでついてきて貰えますか?」
僕はうなずくと彼女の後ろから周りを確認しつつ部屋へと案内をしてもらった。
(うわっ!?
凄く豪華な部屋だな、エルガーで泊まった宿が信じられないくらいの広さと豪華な調度品は確実にスイートルームなみではないのか?)
僕が部屋の内装に驚いていると彼女はクスクスと小さく笑い「まともに泊まったらそれなりの額になりますよ」と教えてくれた。
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